お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
スタッフさん達を引き連れた状態で葵と一緒にホールに向かっていると、お部屋の前に一張羅を着たお父さんの姿が見えた。

というか、もう皆さんはホールに入っているのか、廊下にはお父さんしかいないみたい。

「あっ、お父さん!お母さんとお兄ちゃん達も来てるんだよね?早く会いに来れなくてごめんね。みんなはもう中に?っていうかお父さんはここで何してるの?入らないの?」

「あ、ああ…」

まじまじと私の全身を見るお父さんを不思議に思っていたら、そういえば私、ウェディングドレスを着てたんだ!と遅ればせながら思い出した。
ごめんね、不思議なのは私だったね。エヘヘ

「これね、本物の花嫁さんみたいでしょ!ブライズメイドなのにこのドレスなんだよ?ほんとに花嫁さんと勘違いされそうで怖いんだけど、あはは」

なんて、役とは場違いなドレスを着ちゃっている照れ隠しで笑いながら言うと、お父さんは笑顔で涙ぐみながら私を見た。

「あぁ…奈都子、綺麗だなぁ…世界一綺麗な花嫁さんだなぁ…」

そう言うお父さんの雰囲気と言葉にちょっとうるっと来たんだけど、でもこれはブライズメイドとしての衣裳なだけだから…

「ありがとう。それ、本当の結婚式でも言ってね、あはっ」

そう笑うと、葵が軽いノリで言う。
「じゃあさ、ホントの結婚式っぽく、ちょーっとお父さんと腕を組んでみない?」

「ホントっぽく?…じゃあ、いつかの本番の練習でちょっとだけね、なんて。ふふっ」

私も葵のノリに合わせて、右手をお父さんの腕に添えてみた。

「こんな感じだっけ?」
「うん、いーね。じゃ、僭越ながらあたしが…」
葵が私のベールをふわりと下ろした。

「え?下ろすの?」
「そうよー、…うん、完璧!じゃ、行こっか!」

ん?行こっか、って、どこへ?

顔に「?」を貼り付けていると【瑠璃の間】の扉がゆっくり開き、見えたのは照明がかなり絞られた、真っ暗に近い会場。

あぁ、この中で待機するってこと?

へ?まさか、ブライズメイドをお父さんと一緒にやるの?…てことはないだろうけど…一体どういう事?とお父さんと腕を組んだまま固まっていたら、会場の中からマイクを通した声が聞こえてきた。


『それでは、新婦 奈都子さんとお父様のご入場です!皆さま、どうぞ大きな拍手でお迎えください!』

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