お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
いつも通り、桜賀が丁寧に「ごちそうさまでした」と手を合わせると、私もいつも通りに「こちらこそ、ごちそうさまでした」と手を合わせた。

ごはんの後は、これまたいつもと変わらずお酒を片手に、テレビを見たり他愛のない話をしていると、不意に桜賀が私の支社での様子を聞いてきた。

「そういや今日支店に行った時、玄関掃除してたけど…まだ続いてんのか?」

「あー……まぁ…相変わらずだよ」
「矢野さんと俺が抜けて、当たりが強くなってんじゃねぇか?」

「…ん……」
正直に言いたい様な、言いたくない様な…

「…わかった」
「え?」
「いいよ、無理には聞かねぇから」
「…うん…」


あ……今日の話、聞いてみようかな…

「あのさ、桜賀」
「ん?何だ?」

「…お見合い、するんだって?」
「どこでそれを?」
「ルナさん達が話してたのを葵が聞いたみたいで」
「はぁ……あの人は…ったく…」

「それで……これはたまたまなんだけど…その……給湯室で桜賀とルナさんが話してたのを…少し聞いてしまって」
「あそこに来たのか?」
「お湯を貰いに給湯室に向かってたら話し声が聞こえて……ごめん、隠れて聞くようなマネして…」
「いや、別に聞かれて困る話じゃねぇし」
「そっか。…それでお見合いって…」
「あぁ、するよ。…どこまで聞いてたのか知らないけど、俺がしたいって言ったんだよ」

やっぱりそうなんだ…

「じゃあ…桜賀は相手の方がいいって言えば…その方と結婚するの?」
「あぁ、そうしたいと思ってる」

「…そっか」

失恋、確定。


あー…
体の全ての骨が冷たくて…ぐにゃぐにゃで…
体に力が入らないみたい…

泣きたいけど、気持ちを悟られない様にぐっと我慢する。


じゃあ…最後の賭け、ではないけど、これでだめならすっぱりと諦めよう。

「実は私も…親からお見合いを勧められてるんだ」
「受けないのか?」

「…どうしようか迷ってる」
「じゃあ俺からの最後の命令な。先月俺が勝った分の命令、まだだっただろ?」

え…?

「最後の…命令?」
「実はさ、俺、営業の仕事から離れたんだよ。だから先月の結果で最後なんだ。…何も言わずに去っていって悪かったけど」

「ううん…そうなんだね。それで、命令って?」


「奈都子、見合いを受けて…結婚も前向きに考えてみてくれ」



ズキン


痛い…
ズキズキと…胸が…痛い…


そっか…
それが桜賀の私への気持ちなんだ…


「…わかった。…あ、それじゃ、うちにある桜賀の食器とかも返さないとだね」
「それは…まだ置いといてほしい」
「何で?桜賀もお見合いするし、結婚を考えてるんでしょ?…それならもう私とこうして会うのは良くないからさ」

ていうか…目に触れる所に桜賀といた痕跡があると辛いの。

それなのに…

「頼むから、はっきりと決まるまではまだ置いといてくれ、頼む…」

そう、なぜか苦しげに言う桜賀に負けてしまった。

「…わかった。じゃあ…桜賀から言われるまでうちに置いておくね」

そう言うと、「サンキュ」と私の返事にホッとした表情を見せた。

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