お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
「…じゃあ、そろそろ帰るわ。夕飯も酒もご馳走さん。…奈都子の部屋も、作る料理も、俺は好きだよ。…いつもありがとな」

そんな意外な言葉を唐突に言われてしまい、バリアを張る準備をしていなかった私の心に、嬉しさ、悲しさ、寂しさ、愛しさなど…いろんな感情が幾重にも押し寄せて来た。

…だめだめ!最後までいつもの調子でいなきゃ!

「あ…アハッ、そんなこと言うなんて珍しい!雪どころかホントに槍でも降りそう」

テーブルにあったグラスやお皿を持って、キッチンに向かいながら言うと、桜賀も残りの食器を持ってきた。


「…オマエな……!……っ奈都子…」

ヤバ……見られちゃった…
はぁ……しょうがない!よし!

開き直って、ぼろぼろと涙が止まらないままの顔を見せつつ、気丈に振る舞う。

「アハッ…何かこれで最後かぁ、って思ったら…ちょっと寂しくなっちゃっただけ。…あーあ、せっかく食費が浮いてたのになー、残念!……じゃあ…私もお見合い受けるからさ、桜賀も…幸せになってね!」

「奈都子…」



そして、玄関で「それじゃ、またな」と言う桜賀に「じゃあね、気を付けて」と笑顔で返して、送り出した。

ドアが締まり、カチリとオートロックが小さな音をたてると、堰を切った様にぶわわわっと涙が溢れだした。


そっか……
私……
こんなに苦しくなるくらい…桜賀のことが好きだったんだ…!



桜賀……

今まで一緒にいてくれて…ありがとう…


桜賀がそれを望むのなら…

私、お見合い受けるね…




そして、気持ちと涙が落ち着いた翌日、お母さんに電話してお見合いを受けることを伝えた。


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