告白[Confession of love]
 2時間目は地理の授業だった。地理の先生と軽く挨拶を終えると、すぐに授業が始まった。

「先週配った資料、忘れてないなー? 5ページ目開いてー」

 先生が言うと、周りの席からパラパラと資料をめくる音が聞こえてくる。直後、ガタガタと机を動かす音が、隣から聞こえた。

「もちろん持ってないよね、この資料? 一緒に見よう」

 九条さんは、俺の方に机を寄せてくれていた。
 
「ごっ、ごめん! 俺が動かさないといけないのに!」

 そう言うと、九条さんはクスッと笑った。そして、隙間無く机をくっ付けると、二人の間で資料を広げた。

「く、九条さん、もうちょっとそっちでいいよ資料。俺、視力は良いから」

 九条さんは、開いてと言われた5ページ目の殆どを、俺の机側に乗せてくれていたのだ。

「ううん、この資料面白くて事前に読んじゃってたの。気にしなくていいよ」

 九条さんはそう言うと、再び黒板に向き直った。


***
 

 転校してきてから、早くも2週間が経った。

 純太達と昼ご飯を一緒に食べるようになり、九条さんとも会話が弾むことも増えた。不安でいっぱいだった転校生生活は、順調すぎるスタートを切ったと言える。
 
 そうそう。九条さんの名前は、佐緒里《さおり》というらしい。

 転校前は彼女が欲しいとか、あまり意識した事が無かった。気になる程度の子はいたし、告白された事もある。でも、それ以上進展することは今まで無かった。俺は恋愛に対して、淡泊なのだろうとまで思っていた。

 だがしかし、それは——

 本当に好きな人が、現れていなかっただけなのかもしれない。


***


「拓巳さ、九条の事好きだろ?」

 駅までの帰宅途中、唐突に純太が聞いてきた。

 俺は何て答えればいいのか迷っただけでなく、自分でも驚くほど赤面してしまっていた。

 そしてそれは、「そうだ」と答えているようなものだった。

「やっぱりなぁ、そっかー。良いと思うよ九条、俺も」

「——それってさ、純太以外にもバレてんのかな? 俺が九条の事を……その……好きっていうの」

「さあ、どうだろ? 案外、九条も気付いてるかもな」

 純太は笑いをこらえるようにして、そう言った。

「——純太はどうなんだよ? お前も九条の事が好きだとか?」

「九条なあ……可愛いし、性格も良さげだし、良い子だよなぁ……」

「……いやいや、そういうんじゃなくてさ。好きかどうかって聞いてるんだよ」

「そりゃ、好きか嫌いかなら、好きだけどさ。付き合うかどうかって言ったら、それはまた別の話。——って言うか、九条は俺みたいなのタイプじゃ無いよ、きっと」

 純太は笑ってそう言った。

 いや、純太はモテる——

 純太が九条さんに告白なんてしたら、俺なんてひとたまりも無いだろう。
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