君と始める最後の恋
 それから、終業時間を過ぎても小川くんは戻ってきていなかった。

 気になって、私は先に水無月さんを帰して、資料室に顔を出すことにした。資料室に行く前に、隣のデスクに居る先輩に一言声を掛ける。


「先輩、資料室に資料戻してきます。何か持ってくる物とか、戻す物ありますか?」

「…いや、特に無い。」

「わかりました、ちょっと行ってきますね。」


 今の少しの間で先輩も、実は小川くんの事を気にしていた事が分かる。きっと私が行かなければ先輩が行くつもりだったのかもしれない。

 先輩は時々言い過ぎたかもしれないと悩んでいる様な表情をする。それで落ち着かなくなって、何だかんだフォローをしてくれる優しい先輩だ。

 その不器用な所が小川くんに伝わるには、まだもう少し時間が掛かるだろう。





𓂃𓈒𓂂𓏸





 資料室のドアを開けてそっと中を見ると、小川くんが座って資料を見ていた。莫大な量の資料がテーブルに積まれていて、やり方はかなり極端だけど言われた事は素直に従うそんな姿に少し感動してしまう。

 先輩、小川くんはちゃんと伝えてあげるほうが伸びるかもですよー。なんて思いつつ小川くんの近くに寄る。


「お疲れ様。」

「…!お疲れ様です。」


 入ってくる私の存在には気付かなかったのか、少し驚く小川くんの隣に座って一緒に資料を見る。そんな私を小川くんは見て、何も話さない。

 というか、私が何をしに来たのか気になって仕方ないのだろう。
< 106 / 426 >

この作品をシェア

pagetop