君と始める最後の恋
 無言を破りたくて、資料に目を通しながら小川くんに言葉を掛ける。


「一ノ瀬先輩わかりにくいよね、私も昨年は苦労したんだ。」

「昨年もあんな感じで?」

「うん、むしろ優しくなったななんて思いながら私は見てたよ。」

「優しい、ですか?」

「昨年はもっと言葉足りなかったし、怒られてたから私。」


 そう言って笑うと、小川くんは増々意味がわからないという様な表情をしている。

 今は全然納得行かないよね。と、苦笑いしてしまう。
 小川くんの気持ちはきっと私が一番理解出来る。

仕事しに来ていると思ったら雑用しかずっとさせてもらえないと思うけれど、社会に出て周りを見てみると下積み期間がもっと長い部署もあって、先輩はその期間をかなり短めで終わらせられる様にいつも意味のある仕事をさせていると思う。

 忙しすぎて後輩の指導に丁寧に付けないというのもあるけど、タスクと相談しながら指導の時間も上手く見つけているから、それはそれで凄い事だと、1年自分で社会経験を積んでようやく身に沁みている。


「意味の無い事はさせない人だからもう少し一緒に頑張ろう。」

「…はい。」


 そう素直に返事をしてくれる小川くんに少し笑って資料を一緒に片付け、一緒にオフィスに戻る。
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