君と始める最後の恋
 沙羅さんの家に到着するといつもどおり笑顔で出迎えてくれた。

 お腹はもう随分大きくなってきていて、赤ちゃんの成長がそれだけでも見て取れる。


「郁ちゃん!類くん!いらっしゃい!」

「沙羅さん!ご体調いかがですか!」

「今は大分落ち着いてきたよ、あ、上がって。」


 家の中に促されて先輩と一緒に上がらせてもらう。

 今日は充さんも居て笑顔で「いらっしゃい」と声を掛けてくれる。「お邪魔します」と軽くお辞儀して、そう会話している間にも、沙羅さんがお茶の用意をしてくれていた。


「何かもう類くんと郁ちゃんセットになってきたね。」

「本当に2人付き合ってないの?」

「え、そんなそんな。付き合ってないですよ!」


 沙羅さんと充さんの言葉に、私が答えると沙羅さんは「ふーん」とニヤニヤと口元を緩ませている。

 そんな様子に何だか照れくさくなって、軽く顔を俯かせた。


「何なの、その顔。やりにくい。」

「焦れったいね。」

「意味わかんないし。」


 一ノ瀬先輩は少し不機嫌そうに返事をして、頬杖を着いてそっぽを向いていた。

 その焦れったいに対しての意味わかんないしは結構同感。
 何も焦れったい所か、関係性は良好になりつつも私達の関係に進展は無いから、焦れる所も無いのだ。


「でもいつかこうやって先輩後輩じゃなくて、恋人になった2人が来てくれたらとかやっぱ考えちゃうよ。」


 沙羅さんの言葉に一ノ瀬先輩は否定も肯定もしなかった。

 今はまだありえない話だけどそんな未来もいつかあればいいなって思ってしまう。
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