君と始める最後の恋
 飲み始めて2時間程経過した頃、そんな私の様子をもはや分かっていたとでも言いたげに一ノ瀬先輩は机に頬杖をついて見ている。


「君本当最近制御できないね。お酒。」

「出来てますぅ、ちょおっと飲み過ぎちゃうだけでぇ。」

「はいはい、黙って水飲んでくれる?」

「飲ませてください、先輩~。」

「うざ、臭い。」


 とてもじゃないけど醜態を晒してる上に臭い、とまできた。

 もう素面で聞いていたら生きていけない。ただの先輩、ではなくて大好きな人に言われた言葉だ。夢ならば覚めてほしいレベル。

 それなのに酔っている私は状況も知らず、こんな状態で先輩と向かい合っている。酔っているとメンタルだけは最強になれるらしい。


「ほんっとう、酷い!鬼!我儘!自己中!」

「時々君から悪口が飛んでくるの本当何。」


 呆れる先輩に相変わらず酔っ払ってる私。私はテーブルに突っ伏す。


「でも大好きなんです、すごい好き。たまに見せる優しい所も、私だけに甘えてくれる所も、実は面倒見良い所も、面倒くさい所もぜーんぶ好きなんです。」


 酔っ払いな私の情けない愛の告白を黙って聞いていてくれた。それどころか優しい手つきで頭すら撫でていてくれる。こういう所、普段は冷たいのに落ち込んだりとかすると必ず慰めてくれるところ、好きで仕方がないのだ。

 この人の不器用な優しさが私に向けられると、ずるいな、と思うのに、変わらず好きで仕方がない。



──────────…俺もそういう素直で真っ直ぐな君が好きだよ。




 そんな甘い言葉を吐く先輩の言葉が聞こえた気がした。

 私はそのままゆっくりと眠りに落ちていく。いや、きっと既に眠りについていたのかも。だって、先輩がこんな甘い言葉吐くわけない。

 自分にとって都合の良いすごくいい夢だった。こんな夢なら、ずっと覚めなくていいかも…。
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