君と始める最後の恋
 午後から戻ると、うちの会社の仕事は早いもので、すぐに辞令は出ていた。

 次の配属先は、営業3課の営業補佐。同じフロアにいるけれど、当然課が違うので関わりはほぼなくなる。

 類くんはメールで辞令を確認したのか驚く様子も何もなく、左手でマウスを掴んで何度かクリックしている。相変わらず何を考えているかわからない無表情さ。

 寂しいとか、思ってくれてるわけ無いよな。仕事だし、とか言いそうな類くんが容易に想像着き溜息を小さく吐く。


「沙羅がさ。」

「へ?」


 急に出てきた沙羅さんの話に思わず間抜けな声が出た。類くんがこんな就業中に沙羅さんの話やプライベートな話をするのがそもそも珍しいから、少し驚いてしまった。


「育児にも大分余裕も出来て会いに来てって言ってた。最近会えてなかったし、寂しかったんじゃない?沙羅も君も。」

「そっか…会いたいです!って就業中にこんな話珍しいですね。」

「隠す必要無くなっていつ話しても一緒でしょ、ただの雑談と一緒。」


 そう言いながらマウスから手を離すと、キーボードに手を置いていた。

 思い込みかもしれないけど態々このタイミングでこの話したのが、もう隠す必要も無いからこういう関わり方も堂々とできるよねと遠回しに行ってくれている様で少し笑ってしまう。もしそうだとしたら、相変わらずかなり不器用。


「何、笑ってる余裕あるの。」

「先輩、ツンデレすぎです。」

「余裕そうだね、随分と。」


 もちろん鬼畜一ノ瀬先輩により、タスク量は増えた。
< 233 / 426 >

この作品をシェア

pagetop