君と始める最後の恋
 店を出ようとすると「郁!」と後ろから声を掛けられる。

 その声で結絃だと気付いたけど、振り向けなかった。


「…何であんな事話したの。私に彼氏がいると知ってて。」

「…ごめん、でも気持ちに嘘なんて付きたくないし、久しぶりに再会出来たら、好きだって気持ち忘れられなくなってた。」

「本当自分勝手だよね、結絃。」


 私の怒りが伝わっているのか何も返してこない。

 好きだなんて言ってほしくなかった。綺麗な思い出で終わらせていてほしかった。職場の同僚として上手くやっていきたかった。

 そう思っていたのは全て私の気持ちだから、押し付けるつもりではないけれど、どうして告白がこのタイミングなの?あの時、私の事本気で好きならどうして、遠距離になる事事前に相談してくれなかったの。どうして大学の時から今まで時間があったのに一度も連絡してくれなかったの。

 本当に結絃は凄く自分勝手だ。


「もしさ、彼氏いなかったら考えてくれた?俺達が別れた理由って、遠距離だけでしょ?」

「考えてない。縒りを戻すとかそんなの考えるわけ無い。」


 これはきっと類くんを好きになってなくても確信して言える。

 確かにあの頃は好きだったし別れた時は辛かった。遠距離になるって一方的に告げられた時、せめて事前に私の事を考えて相談して居てくれたらと思ったこともあった。

 あの時別れた理由、遠距離が嫌だったからなんて言っているけどそうじゃない。

 何でも1人で決めて、勝手に離れて行ってしまう結絃に着いていけなくなったから。昔から結絃はやると決めたら真っ直ぐな人で、そんな所が私も最初は好きだと思った。

 だけれど、遠距離になると言われた時は、少しでも進路を決める時に私の顔は思い浮かばなかった?と思えてしまって、悲しくなった。
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