君と始める最後の恋
幸せな日常
 籍を入れて間もない頃。
 最近はアラームが鳴る前に目を覚ます。

 隣に眠る世界で一番愛しい人の姿を目にして、それから洗面所で顔を洗いに向かう。顔を洗って、歯を磨いて色々済ませた後洗面所、鏡の前で自分の左の薬指についている指輪を眺める。


(本当に、夢じゃない。私、一ノ瀬なんだよね。)


 毎朝夢じゃないと確認してからではないと、その日1日を始められないのだ。


「それ、毎朝しなきゃダメなの。」


 後方から声が聞こえてきて振り向くと洗面所のドアの淵に腕を組んで寄り掛かって呆れた表情をしている、先程まで隣で眠っていた愛おしい人。

 一緒に同棲をしていたから、そんなに変わっていないはずなのに、何故か全然違って見える。


「類くん、おはようございます。」

「おはよう。君、最近本当早いよね。」


 そう言いながら類くんも隣に並んで顔を洗ったりを済ませる。

 いまだに信じられない。片思いしていたのも最近に感じるし、両想いがそもそも都合のいい夢だったのではないかと、いまだに思う時がある。私は何かしら目が覚めない病にかかっていて長い幸せな夢を見ているのではないかと…。世界で一番大好きな人の奥さんになれた事が、そのくらい幸せで、信じられないのだ。

 歯を磨き始めた類くんに後ろから抱き着くと、類くんは少し顔を顰めて抱き着く私を見ている。


「危ないでしょ。」

「ごめんなさい!でも毎朝ぎゅーってしないと元気でないんです!類くん補給。」

「ちょっとだけ離れて待ってて。」


 そう言って私を離させて待たせた挙句まだシャコシャコと歯を磨いているため、数分ほど私は大人しくそこで待たされる。

 今、待てと目の前でおやつを我慢させられるわんちゃんの気持ちが少しわかった気がする。良しと言われるのを尻尾振ってそわそわしながら待つあの感じ。

 当然犬になったことなんてないが。
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