君と始める最後の恋
焦り
 職場での昼休み、何気なしにスマホの画面を開くと類くんから帰り遅くなるとの連絡が入っていた。今日は接待が入っているらしく、かなり遅くなることが予想できた。

 了解です。の言葉だけを短く返すと、思わず溜息が零れる。


「郁先輩?」


 その様子を前の席から見ていた志織ちゃんが、首を傾げている。

 後輩の前で気を抜いて溜息なんて零してしまって、情けない。

 日頃の疲れが少し出過ぎて気を抜いてしまっていたようだ。


「あ、ううん。類くんが帰り遅くなるみたいで、お夕飯面倒だし買って帰ろうか悩んでた。接待なんだって。」

「マジで忙しいですね、一ノ瀬さん。」

「そうなんだよね。身体壊さないといいんだけど。」

「…そこに関しては郁先輩の方が心配ですけど。」


 志織ちゃんの言葉に「え?」と問い返すと、少し呆れた様な表情をしていた。


「身体というか、メンタルです。我儘聞いてもらえなくても定期的に言葉は吐き出した方がいいですよ。出すのと仕舞い込むのじゃ全然違いますから。」


 志織ちゃんの言葉に思い当たる節しかない。

 これを言ったら類くんの負担になるかなとか、喧嘩になっちゃうかなとか、嫌な気持ちになるかなとか色々考えて結局何も言えなくなっていく。

 交際の時から類くんにも悪い癖と言われ続けたけど、この性格だけは中々直らない。
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