君と始める最後の恋
ずれていく
 それから会社で上原さんに会う機会が割とすぐに来た。

 私の顔を見るなり『あ』と口を開けて、私は軽く会釈する。

 その隣には類くんも居て、目が合った。

 上原さんは今帰り時なのか、こちらに向かって歩いてくる。


「お疲れ様です。桜庭さん。」

「お疲れ様です。例の件、ですよね?」


 類くんには聞こえない様にこそこそと話すと、うんうんと首を縦に振られた。

 あまりいい結果では無かっただけに報告しにくいけど、これも仕方ない。

 心に決めて話そうとすると、後ろから首根っこを掴まれてしまった。


「わっ。」

「そうだ、言っとかないとって思ってた。」


 その声は当然類くんで、私と上原さんの距離を離しながら言う。


「同期会、行かないし郁を使うのやめてくんない?」

「だって、私が言ったとて来ないでしょ。それに、私の立場も分かってよ。ここまで執拗くなんて私もしたくないんだから。」

「知らないよ。そっちの都合なんて。俺達結婚式控えてるから、そんな暇無いし、仕事忙しいの分かってるでしょ。」

「ちょっと顔出すくらい良いじゃない!」


 類くんにここまで食い下がれる女性見た事無いかもしれない。この面倒臭そうな顔を見たら大抵の人が引く。

 それなのに言いたいことを言って、こんなに砕けた話し方をお互いにしているのもかなり仲が良いんだなと思ってしまった。


「(2人でやってよ…。)」


 そう思いながら類くんからも距離を取る。この場に私は不要だし、断りは類くんから入れてくれた。

 話は終わったはずだし、仕事もまだ残っているから早めに戻ってしまいたい。


「本当この頑固男!」

「何とでも言えよ。」


 軽く溜息を吐きながら答える類くんの後に私も「あの」と言葉を挟む。


「私、忙しいので行きますね。お力になれなくてごめんなさい!」


 そう言って頭を下げてその場から立ち去る。

 類くんはこんなに言ってくれたりしているのに何が嫌なのか、また何も分からないもやもやだけが蓄積されていく。

 解消されたと思ったらまた増えての繰り返し。
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