君と始める最後の恋
 今、類くんも仕事が忙しくて、私の少しの甘えたいとかの我儘は言えなくなってまたほんの数日前に戻ってしまった。

 そんな私は今カフェスペースで項垂れている。


「(類くんも頑張ってるし…、我儘ばかり言ってらんないよね。)」


 相変わらず結婚式の話は進まないまま、日々だけが過ぎていく。

 沙羅さんが同じ様な状況の時家出してたなと再度そんな話を思い出してしまった。

 今日、沙羅さんの所に遊びに行っちゃ駄目かな。
 そう思いながらスマホを取り出して、沙羅さんの連絡先を選ぶ。


「(花果(はなか)ちゃん居るし、厳しいかも。)」


 花果ちゃんとは、沙羅さんと充さんのお子さん。
 つまり私と、類くんの姪っ子に当たる。

 迷惑かも、とは思いつつも、誰かに縋りたい気持ちに勝てず、通話ボタンをタップして電話を掛ける。数コール後、コール音が途切れた音がした。


『郁ちゃん?久しぶり!』


 沙羅さんの元気な声を聞いて少し落ち着いてきた。


「急にごめんなさい。最近どうかなと思って。」

『最近会えてないもんね…。花果も充くんも2人に会いたがってるよ。』


 ”私も2人に会いたいな”と言いながらスピーカーにしているのか花果ちゃんの元気な声と、洗い物をしているのか水の音が聞こえた。

 相変わらず優しくて温かい人だと思う。

 私が何も言えずにいると『郁ちゃん、今日家来ない?迷惑じゃなかったら』と声を掛けてくれた。


「え?」

『今日ね、充くんも少し帰り遅くて、類くんは相変わらず仕事でしょ?女子会でもどう?』


 女子会なんて年齢じゃないかもうなんて朗らかに笑う沙羅さんに釣られて笑ってしまった。


「じゃあ、お邪魔します!」

『うん、待ってるね。楽しみにしてる!』


 そう言って電話を切った。

 類くんに連絡は、しといた方が良いかな…。

 少し悩んで類くんの連絡先を探したけど、どっちみち類くんが帰るまでにはきっと家に居るし良いかなんて思ってスマホを閉じた。

 普段からそんなにお互いの連絡は入れる方じゃないし、帰るのが遅くなるときにしかしない。

 そんな安易な考えで、私は意味も無く類くんに連絡を入れなかった。
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