君と始める最後の恋
 夜道、2人で並んで歩くもしばらく会話は無かった。

 怒ってますか?なんて無神経な事は聞けなくて、私も黙って居るしかない。

 その沈黙を破ったのは類くんだった。


「今日、何で連絡しなかったの。」

「…類くん帰ってくる前に帰るつもりで、しなくてもいいかなんて結果になっちゃいました。安易だったと思ってます。ごめんなさい。」


 そう返すと類くんはこちらに軽く視線を受ける。


「本当、連絡くらいして。帰って君が居ないから本当に驚いたし、何より心配した。電話も出ないし。」

「…ごめんなさい。」

「…急に沙羅の所行くなんて、何かあった?無かったじゃん、君が連絡も無しになんて。」


 怖がらせない様にかいつもより優しい声色で話しかけてくれている。

 類くんは怒りもせず、心配したと言ってくれる。電話の時だって、これ以上心配させないでと言って、心配したと伝えてくれていた。

 こんなに大事にされていても不安になるんだから、私は欲張りすぎるのかもしれない。


「ごめんなさい、何でも無いんです。私が何も考えてなくて。」

「郁、俺は謝ってほしいわけじゃない。」

「本当に、何も無いんです。沙羅さんと話して会いたくなっちゃっただけです。」


 そう言っていつも通りの笑顔を向けると、類くんは無表情で私の顔を見ている。その見透かす様な目で見てほしくない。

 類くんに知られたくないから、嫉妬とか、不安とか、寂しさとかバレてこれ以上負担とか面倒を押し付けたくない。


「郁。」

「帰りましょ!沙羅さんからも類くんにっておかず分けてもらったんです。久しぶりですよね。沙羅さんのご飯。」


 そう言っていつも通りの私を取り繕って、類くんの少し前を歩く。

 心配かけて、迎えにまで来させるなんて私は何をしていたのか。
< 329 / 426 >

この作品をシェア

pagetop