君と始める最後の恋
────Side 類


 郁の様子が明らかにおかしい。

 ほんの少し先を歩いている郁の背中を見つめながら色々考えていた。

 最近の郁はまた前の様に働き過ぎなくらい、家事も仕事もやってくれていて、このまま彼女が長続きしない事は分かっていた。

 それにしても疲れだけではない何かを感じるし、郁は実際俺に何かを隠そうとしている。

 こうなった時の郁は意地でも話はしないし、どうしたもんかと悩んでいた。


「郁。」

「何ですか?」

「何で今日は離れて歩くわけ。」


 離れられていては郁の表情も何も見えないし、観察のしようがない。

 そう問い掛けると郁はこちらには振り向きもしないで「今日は先を歩きたい気分なんです。」と意味の分からない返しをしてくる。

 普段なら俺が離れろと言っても腕を組んで来るような彼女だ。

 こんなに離れているのが、俺の方が不安に感じる時が来るなんて思わなかった。


「郁、止まって。」

「もう、今日の類くんは沢山名前呼んできますね。何ですか。」


 そう言いながら郁は止まるけどこちらを見ない。

 何で今日はそんなに俺から目を逸らすの。

 先程沙羅の後ろに隠れられた時も、何とも言えない気持ちに襲われて、ただただショックだった。

 郁の隣に並ぶと手を繋ぐ。郁は少し驚いた顔をして、こちらをようやく見た。


「どう、したんですか。」

「たまにはいいでしょ。」


 君がどこかに行ってしまいそうな気がしたから。なんて言葉は言える訳も無くて、強引に手を取って繋ぎ止める。

 どうしてこんなに漠然とした不安に襲われるのだろう。
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