君と始める最後の恋
 言っても困らせるだけは意外と家庭環境の事もあったかもしれない。

 決して毒親だったとか、家族仲が悪かったわけでは無いけど、我慢を強いられてきた人生ではあった気がする。

 理由は3兄弟の1番上の長女だった。

 始まりは弟との出来事。


『あ~!私のおもちゃ!』


 当時4歳だった私が2歳の弟に、遊んでいた人形を雑に奪われた時だった。子どもだった私は大きな声を上げておもちゃを返してもらおうととにかく必死で、強引に弟の手からぬいぐるみを引っ張って取ったのだ。

 2歳の子が4歳の子供の力には敵わなくてぬいぐるみは簡単に奪い返したけれど、そのまま思い通りにはいかなかった。


『お姉ちゃんでしょ。貸してあげるくらい良いじゃない。』

『お母さん…、でも、まだ私遊んで…。』

『こんな小さな子に意地悪しないの。貸してあげなさい。』


 こんな風に大抵の事は『お姉ちゃんでしょ』という言葉で片付けられた気がする。

 私が好きな食べ物も、おもちゃも、ゲームも、何かしらの物は弟や妹が欲しがれば私が我慢した。

 弟は甘やかされて育った分、それはそれは我儘な子に育ったけど、今では優しい子に育っていて、それでも私は未だに弟に近寄るのが嫌だった。

 その時からだった気がする。

 私が我慢すれば丸く収まる。私が尽くせばみんな幸せになる。
 そうしておけば、誰も不幸にならず平和で、誰も私をとがめないから。

 実家が嫌いとか、そんなのは無いけど、その日々を思い出しては中々実家には寄り付かなくなって、この間結婚前のあいさつで帰ったのが久し振りだった。

 きっと私のこの性格が染みついたのはその時から我儘を言えなかった私のせい。

 そんな懐かしい出来事を思い出しては、何も言えなくなった。

 こんな話も昔の事なのに、ほんの少し前の事の様に沁みついていて、いまだに実家に帰る度に同じ事を繰り返すんじゃないかと不安だった。
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