君と始める最後の恋
 マンションから出て、少し前を歩く先輩の後ろを私は着いていくだけだった。どう声を掛けたらいいかわからない。普段ならば、いくらでも話は思いつくのに。


「笑えてくるよな。本人全く気づいてないの。結構昔はアピール強めにしたりしたのにさ。」


 前からそんな声が聞こえてきて、地面を見ていた目線を先輩の背中に向ける。どんな表情で話しているか分からないけど明らかに傷付いているようなそんな声色。

 ああ、もう本当やりきれない。せめて先輩が片思いじゃなくて幸せそうなら私も諦めきれるのに。何でそんな辛い恋をいつまでもしてるの。誰よりも幸せになってほしいのに、先輩も今叶わぬ恋をしている。


「何か言ってよ、いつも馬鹿みたいに話すくせにさ。」


 何も言えない、言えるわけないよ。

 私は少し走って先輩の背中に抱きつく。

 私も馬鹿だ、叶わない恋をした。私の好きな人は私ではない他の人を見ている。

 一ノ瀬先輩は、私の行動に対して何も言わない。

 今何を考えていて、どうしたいのか全部知りたい。必要とされていないのはわかっているけれど、私に埋めてあげられる隙間があればいいのに、なんて思ってしまう。

 先輩がこんなに傷ついているのにずるい考えかもしれないけれど、入り込める隙間があるなら、少しでも入り込みたいの。
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