俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「いや。あのね、翔さん。私の感覚では、一年とかある程度の交際期間を経て、ようやく結婚に至るという感じでして……」

 隣から感じる無言の圧に思わず敬語になり、語尾が弱々しくなる。

 お互いの両親に挨拶をしておいて、往生際が悪いのはわかっている。頭が固いと言われるかもしれないが、常識とか普通はという感覚が私を躊躇させる。

「それは、夫婦になってからではできないことだと?」
「えっと……?」

 なにを意図した発言なのか、一筋縄ではいかない人だと知っているだけにわずかに疑う。

「これほど愛し合っているのに、真由香は場合によっては別れるつもりだと?」
「ん?」

 そういう話だったかと自身の発言を振り返るが、心当たりはまるでない。あくまで、結婚までにもう少しだけお付き合いの期間がほしいという話だったはず。

「いずれ結婚するのが決まっているのなら、それが今になろうが後になろうが、そこにどんな違いがあると?」

 真剣な目で語られて、違いがあるのかと考えてしまう。

「俺は十日も待った。その間に一緒に過ごす時間は少なかったかもしれないが、真由香が気遣い屋で俺を想ってくれていることは十分に伝わっている」

「ま、まあ、間違いではない、のかな」

 真っすぐに言われると少し恥ずかしいけれど、そう感じてくれていたのなら素直にうれしい。

「この短い期間に仕事でも遭遇したが、無駄なく的確に指示を出す様子に優秀で熱心な人だと再確認できた。俺にとって真由香は、尊敬できる人でもある」

「ありがとう……?」

 航空管制官は複数いるし、タイミングによって就いている業務が違う。私が仕事を始めて数年経っているが、翔さんが操縦する機体の担当になったのは気づいただけでも数えるほどしかない。

 それでも彼の声を聞き分けられてしまうなんて……と横道にそれかけた思考を振り払った。

 さっきからものすごく褒められている。もちろん悪い気はしないが、素直に受け取っていいのかはわからない。
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