俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「それにしても、結婚ってなにがきっかけになるかわからないわね。ねえ、真由香。結局、結婚ってどう?」
「うーん。家に縛られず仕事も続けられて、思っていたのと違う。あっ、でもそれは相手が翔さんだからっていうか」

 自分で言っておいて、なんだか恥ずかしくなってくる。

「うんうん。で?」

 追求の手を緩めるつもりはないらしい。

「その、彼は私の仕事に理解があるし。そもそも私が仕事をしたいから結婚を考えられなかったのも知っていて、辞める必要はないって言ってくれているの」

 梓の満面の笑みに追い詰められて、白状してしまう。

「彼は家事も協力的で。お互いに無理はしていないんだよ。少しずつ負担をして、その」
「つまり、相手が椎名さんじゃなかったらありえないってことね」
「そう、ね」

 なんだか惚気ているようで気恥ずかしい。

「はあ、よかった」

 ソファーの背もたれに体を預けた梓に、どういう意味かと首を傾げる。

「真由香が幸せそうで安心。それと、結婚もそれほど悪いものじゃないって感じられたっていうか」
「そうだね。私たち、ちょっと意固地になっていたかも。仕事と両親からのプレッシャーの板挟みになって」
「そうそう。仕事に理解があって家事も協力的で、素敵なバリトンボイスの旦那さまってどこかにいないかなあ」

 彼女の変化に、おや?と目を瞬く。
 そして声へのこだわりは譲れないのかと、くすりと笑った。

「ちょっとね、真由香が羨ましく見えるの。すごく幸せそうだから。そうだ! 椎名さん、家事も気遣いもできるお薦めの独身パイロットを紹介してくれないかしら」

 手を小さく叩いた梓に、目を瞬かせる。

「もちろん、低くて素敵な声の人でしょ?」

 そう言った私自身も、梓も噴き出す。

「翔さんに聞いてみるね」



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