俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
『搭乗者数124名。燃料は一時間分ほど……真由香、大丈夫だ。俺たちパイロットを信じろ』

 必要事項を述べた後に、私的なメッセージが入る。翔さんも、交信相手が私だと気づいていた。
 そして、私の緊張や怯えが彼に伝わってしまった。

 一番不安なのは、操縦桿を握る機長と翔さんだ。この事態が、怖くないはずがない。
 出火しているのなら黒煙も上がっているだろうから、乗客も気づいているかもしれない。

 ここで私がうろたえてどうすると、自身を叱咤する
 瞼を閉じて呼吸を整える。それから、目を開けてレーダーを追い状況把握に努めた。

『RAJ34、右旋回で磁針路百五十度、降下し3500フィートを維持』

 エンジンから出ているだろう炎が機体へ向かないよう、風向きを確認して指示を出す。
 翔さんからの復唱を聞きながら、どの滑走路へ誘導するのかなど判断していく。

 レーダー管制室からは見えないが、おそらく地上では消防や救急が動きだしているはず。どうか無事であってほしいと願いながら、次へとつなげる。

『RAJ34、118.1MHzで東京タワーと交信してください……機長、副機長。全員の無事を信じています』

『118.1MHz、RAJ34……また後で』

 付け加えられたひと言に、大丈夫だという彼の自信を感じる。

 私たちはこの後、約束通りあのカフェで会える。彼がそう言うのだから、絶対に間違いない。

 翔さんの余裕ある様子に私も冷静さを取り戻し、次々と入ってくる交信に応えていった。
 それをさばいている間は、不安になる暇もない。

 そうして業務終了間近になった頃、RAJ34に乗り合わせた124名全員の無事が知らされた。

「よかったあ」

 安堵に崩れ落ちそうになるのをなんとかこらえる。
 一秒でも早く彼に会いたくて、一目散にあのカフェに向かった。



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