俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「真由香」

 諸々の処理があり、解放されるまでに思いの外時間がかかってしまった。
 手が空いてすぐさま家族に連絡を入れている機長に目礼をしながら、足早に約束のカフェへやってきた。

「翔さん!」

 全員無事だという知らせは届いているはずだが、それでも真由香は店内で座っていられる精神状態ではなかったのだろう。店の脇で落ち着かない様子で周囲を見回していた彼女は、俺の声に気づくとすぐさま駆け寄ってきた。

 心配かけてしまって悪かったという謝罪は、口にする前に遮られる。ぶつかるような勢いで胸もとに飛び込んできた真由香を、とっさに受け止めた。

「翔さん……無事でよかった」

 震える華奢な体で、必死にしがみついてくる。

「信じろって、言ったはずだぞ」

 顔を見せようとしないのは、彼女が声をあげずに泣いているからだろう。

「真由香がいてくれたから、無事に切り抜けられた。ありがとう、真由香」

 そう言って抱きしめ返すと、真由香は俺の腕の中で何度もうなずいた。


END
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