俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 この部屋がどれほど豪華であるかは、到着してすぐに案内してもらったからわかっていた。でも実際に過ごしてみたら、想像したよりもずっと快適であらためて感動したほどだ。

 浴室はとにかく広くて、テレビまで見られる仕様になっている。『後で使ってみるといい』と言われていたジェットバスはとにかく気持ちよくて、体だけでなく心までリフレッシュできた。

 夜のうちに洗濯を済ませておこうと、ランドリースペースも早速使わせてもらった。
 ついでに翔さんが使ったタオルも洗ってしまおう。そう深く考えないまま行動したのはよかったが、畳む段階になって夫婦っぽいと意識したら途端に恥ずかしくなる。ひとり悶絶したのは、彼には絶対に知られたくない。

 昨夜は乾燥機を使わせてもらったが、晴れた昼間なら陽の光が注ぐサンルームに干すつもりでいる。休日の昼間はそこで日光浴をしながらゆっくり過ごしたいと思えるような、素敵な空間だ。

 私の家とはまるで違う豪華な設備に感動して、振り返ってみれば意外と楽しく過ごしていたかもしれない。

「よし!」

 気合を入れないと布団の心地よさに負けて二度寝をしそうだ。名残惜しさを振りきってベッドを降りる。
 それから手早く出勤の準備をして、マンションを後にした。

 早番の今日は、八時に職場入りした。
 昨日は翔さんに翻弄されてばたばたする姿を晒してしまったが、ここへ来るとすっと背筋が伸びて思考が切り替わる。

 私がミスをすれば、多くの命を巻き込む大事故を引き起こしかねない。空の安全を絶対に守る。そんな使命感に気が引き締まる思いだ。

 まずは気象情報に加えて、チャーター機やVIP機などの特殊フライトの状況をチェックしていく。
 今朝は晴れていたものの、少し風が強く吹いていた。このまま北風が強くなるようなら、滑走路が一本閉鎖になるかもしれない。フライトに影響が出なければいいがと思案しつつ、その可能性も頭に入れておく。

 それからブリーフィングを終えて、管制室に入室した。
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