俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「うーん、よく寝た」

 ベッドの上で体を起こし、組んだ両手を上に向けて思いっきり伸ばす。

 目覚めたすぐはどこだったかと困惑しかけたものの、そういえば昨日、翔さんのマンションに移り住んだとすぐに思い出した。
 その上でここまでくつろげてしまう自分は、思っていた以上に図太いのかもしれない。

 それもこれも、すべてこの豪華なベッドのせいだと言っておきたい。
 快適な空間づくりにこだわっていると翔さん本人が話していたが、この程よい反発のマットレスはとにかく寝心地がよかった。ふかふかの掛布団はある程度の重みがあり、保温性も抜群にいい。それにダークブラウンのリネン類は、なんだか安らかな気持ちにさせてくれた。おかげで、途中で一度も目を覚ますことなく今に至る。

 昨日はあれから出勤する翔さんを見送って、荷物の整理をしたり食材を買いに出たりして一日が終わった。

 室内はどこでもなんでも好きなように使ってかまわないと言われているとはいえ、家主が不在の部屋で過ごすのはどうにも居心地が悪い。むしろよく他人の私にそこまで許したなと、翔さんの警戒心の低さが心配になる。

『盗られて困るものは置いてないからかまわない』

 本人がそう言いきるからには、きっとその通りなのだろう。
 
 この生活がどれくらい長く続くかはわからない。
 でも最初から過剰に遠慮していては、窮屈な思いをするのは自分だ。それで疲れを残したまま出勤して、仕事で取り返しのつかない失敗をするわけにはいかない。だから彼への配慮は忘れず、普通に暮らす上で必要な範囲で自由にさせてもらおうと割りきることに決めた。

 そうしてひと晩を過ごしてみたが、とにかく心地よかった。
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