俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 翌朝早く、すっきりと目が覚めた。

 ただ瞼を上げても視界は開けず、混乱しながら顔を上げる。
 そこで飛び込んできたのが仮の夫の整いすぎた顔だなんて、あまりにも心臓に悪すぎた。悲鳴をあげなかった自分を褒めてやりたい。

 どうやら私はひと晩中、翔さんに抱きしめられていたらしい。
 こんな状況で熟睡できてしまえるなんて、自分が信じられない。昨夜はきっと相当疲れていたのだと思うことにして、深くは考えまい。

 なんとか彼の腕を抜け出したところで、翔さんも目を覚ました。

「おはよう」

 寝起きのかすれた声が妙にセクシーで、ドギマギさせられる。

「お、おはよう、ございます」

 それだけ返すと、逃げるように寝室を後にした。

 着替えてメイクをしている間に、翔さんが起き出す音が聞こえてくる。
 今日の私は早番だが、彼は二日間休みだったはず。長時間のフライトをこなしたばかりで、きっと疲れているだろう。だからゆっくりしていてほしいのに、私に合わせて動きだしたのだとしたら申し訳ない。

 朝食を用意するためにキッチンへ行くと、すでに翔さんが立っていた。

「ちょうど用意できたところだ。ほら、座って」

 首を傾げながら、促されるまま席に着く。その目の前に、料理を乗せたトレーが置かれた。

「これ、翔さんが?」

 海苔をまいたおにぎりふたつに、焼き魚とお味噌汁が添えられている。時間のないときはトーストで済ませがちな私から見たら、ものすごく手の込んだ朝食だ。

「冷凍しておいたものもあるから申し訳ないが、昨日のお返しだ」

 昨晩、私が夕飯を用意していたことを言っているのだろうか。
 自分の食事を作るついでにしただけだから、お礼なんていらないのに。それで彼に手間をかけさせたなんて本末転倒だが、あえて口にはしなかった。
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