俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 彼女の同僚は鬱憤が溜まっていたのか、親への不満を饒舌に語る。

 その中で知った真由香に結婚願望がないという事実は残念だが、裏を返せば現時点で特別な相手がいないとも言える。

『最初は、無意識に言っていたんだけどね。それでいい声の副機長さんだけど、たしか椎名さんだったかな』

 まさか、この場で俺の話題が出るとは思わなかった。
 どうやら彼女から好意的に見られているようだと知り、気持ちが加速する。

『この声で四六時中愛をささやかれたら』と自ら言っておきながら恥ずかしがっている様子の彼女は、仕事中のキリリとした口調から伝わる印象とはまるで違う。けれど、マイナスにはならない。

 使えるものはなんでも生かす。俺の声を気に入っているのなら、それで彼女の気を引けばいい。

 牧村に煩わされたくない。最初は追い詰められて安易に結婚をすればと考えたが、頭の中にそんなものはもうなかった。

 ただ、真由香がほしい。

 結婚願望の低い彼女を手に入れるにはどうしたらいいのか。とにかく誰にもとられないように、さっさと彼女を俺のテリトリーに囲ってしまいたくなる。

 そろそろいいかと、真由香の同僚が気づくように机を挟んだ反対側に座り直す。

 しばらくして、真由香の同僚が俺の存在に気がついた。
 驚かせてしまったのは申し訳ないが、相手にも非がある自覚があったのだろう。気まずそうにしながら、すぐにその席を俺に譲った。

 そうして真由香とふたりになり、偽装結婚を提案した。
 実は伴わないから、合意をするハードルは低くなる。偽装とはいえ俺との夫婦を装っている間は、真面目な彼女はほかの男に靡きはしないだろう。
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