俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「そうだ、真由香。二十四日は、仕事が休みだったよな?」
「そうですけど……?」

 唐突に話題を変えた彼をチラッと見る。

 クリスマスまでもう三週間もないなんて忘れていた。ここ数年イベントごととは無縁だったから、すっかり意識から外れている。なんなら二十五日は遅番で仕事が入っているが、それに不満を微塵も抱かなかったほどだ。

 目の前の翔さんが、穏やかに微笑む。
 この表情に呆けていてはいけないと、自身を戒めた。

 翔さんは自分の顔の良さを自覚しているのだろう。その顔とよい声で少し強引に押せば私が絆されがちなのも、おそらく把握されている。今もきっと悪だくみをしているに違いない。
 そう考えて疑いの視線を向けたが、彼はものともしなかった。

「その日は、俺とデートをしようか」
「デ、デート……?」

 一瞬混乱したが、ハッとして全力で首を横に振る。

「無理です。絶対に無理ですから! ふたりで出かけて、誰かに目撃されでもしたら……そういうのは、本当の恋人ができたら楽しんでください」

 自分で言っておきながら、彼が私以外の女性と過ごす姿を想像してズキリと胸が痛む。

 でも特別な時間を過ごしてしまえば、叶わない想いにさらに胸が苦しくなるだけだ。それに万が一知っている人に見られた、翌日からなにを言われるかわからない。

「職場に近づくわけじゃないから問題ないだろ。もしなにかあっても、俺が守るから」

 守るだなんて言われたら、乙女心が疼く。

 でも、そうじゃないと浮かれたかけた自身を叱咤した。

 あくまで私たちは偽装の関係なのだからデートなんて必要ないと、視線で彼に訴えながら首を左右に振る。
 が、翔さんは取り合うつもりはないらしい。それどころか今度は眉を下げて弱りきった顔をするから、こちらの勢いが削がれてしまう。
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