俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「俺のために協力してもらっているというのに、こうして食事を作って家事もこなしてくれている。そんな真由香に、お礼がしたいんだ」

 もとは私の失言が原因だからお礼なんて不要だと、口にしかけてなんとか踏みとどまった。

「だめか?」
「うっ……」

 少し上目勝ちに放たれたとどめのひと言が胸に刺さる。

 好みの声で懇願しながら、さらに首を傾げるのはずるい。強く拒否できなくなる。
 もう降参だと、手にしていた箸をぐっと握る。

「わかりました。誘ってくれて、ありがとうございます」

 私がそう言った途端に、彼の表情がほころぶ。

「でも、今後はお礼とか本当に必要ないですからね」

 そのたびにデートに誘われでもしたらたまらない。

「ありがとう。その謙虚な一面も、真由香の魅力だ」

 しおらしい姿を見せたと思えば、すぐに甘くなる。

 意図的に耳もとでささやく以外にも、翔さんは今みたいにさらりと甘言を挟んでくるから困る。どう反応していいのかわからないし、隠している好意が溢れそうになる。

 好きになっても虚しいだけ。どれほど甘く迫られても、それは彼の演技にすぎないのだから。
 大丈夫。気持ちはまだ芽生えただけで、蓋をしてしまえばいい。そう自身に暗示をかけながら、必死に平静を装い続けた。


< 59 / 110 >

この作品をシェア

pagetop