俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 ターミナル駅で下車して、歩きだす。でも私に向けられた視線を感じた気がして、周囲を見回した。

「え?」

 一瞬目が合ったその人は、牧村さんだったと思う。ふいっと顔を反らせて歩いて行ってしまったが、彼女が向かう先は関係者の入口の方だった。だから、見間違いではないのだろう。

「どうして?」

 偶然目が合ったというより、彼女は私が気づくより前からこちらを見ていた気がする。もしかして私と翔さんのことでなにか勘づいているのだろうか。

 当初から私は、彼との関係が周囲にバレたら女性陣になにをされるかと心配していた。それが翔さんと本当に親密にしていた人だったら、どんなふうに思うのか。

 そもそも、翔さんと話しようになったきっかけはこの空港内のカフェでの出来事だった。過去にもあのお店で、私が一度だけ参加した飲み会に自分もいたと、声をかけてきた整備の男性もいた。当然ほかにも関係者が利用していてもおかしくはなく、牧村さんやその知り合いがあの出会いの場を目撃していた可能性も否定できない。

 あの日、翔さんは私をからかうように距離を詰めた。何回か私の耳もとに顔を寄せて甘くささやいていたが、傍から見たら相当親しい様子に見えかねない。まるで、恋人同士の触れ合いのように。

 その直後に流れたのが、彼が結婚したという噂だ。あの場面を目撃していたのなら、相手が私だと答えにたどり着いてもおかしくない。

 はっきりとした理由はわからないが、さっきの牧村さんの様子から、私に対してよい感情を抱いていないのだと察せられた。

 そんな想像をしていると、仕事の合間についため息が多くなる。
 いつもより長く感じる勤務時間をなんとかこなし、帰り支度を済ませる。重い足取りで駅に向かった。
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