俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「来栖真由香さん……で、あっているかしら?」

 不意に名前を呼ばれて、足を止める。振り返った先にあった牧村さんの姿に、鼓動がひとつ嫌な音を立てた。

 遠目にも綺麗な人だと思っていたが、間近で見るその完璧な容姿には圧倒される。身長は平均より少し高い梓と同じくらいだろうか。今日の彼女は体のラインにぴったりと沿うワンピースを着ているため、豊かな胸もとやキュッと引き締まったウエストが強調されている。はっきりとした顔立ちを囲う緩く巻いた髪が、柔らかな雰囲気をプラスしていた。

 容姿もスタイルも抜群の彼女なら、有名人に何回も声をかけられているという話も納得だ。

「……そう、ですが」

 彼女が私を呼び留める理由なんて、翔さんの件しかないだろう。やはり牧村さんは私たちの関係に気づいているのだと確信が深まり、不安に手を握りしめた。

「お疲れのところ、ごめんなさい。あなたと少し話がしたくて。お時間は大丈夫かしら?」

 牧村さんにとって私の存在は、よりを戻しかけている男性につきまとう邪魔者なのかもしれない。憎まれても仕方がないだろうに、彼女は私に対して下手に出て気遣う素振りを見せる。
 これだけ綺麗で優しい人なら、翔さんが心を預けるのもうなずけてしまった。

 彼女の伏し目がちな視線に、胸が絞めつけられる。秘めた悲痛な思いが伝わってくるようだ。自分がものすごく悪いことをしている気分になってくる。

「大丈夫です」

 そう答えた私に、彼女はほっとした表情を見せた。

 牧村さんの後に続き、空港内にある私が一度も利用したことのないカフェに入る。

「コーヒーでいいかしら?」

 向かい合わせに席に着いた早々に、牧村さんが尋ねてきた。

「はい」

 メニューを見るような心の余裕などなく、彼女と同じものでかまわないとうなずく。
 オーダーを済ませてしばらく、居心地の悪い沈黙が続いた。
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