俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「フライト中に何度か、乗客の男性からいろいろとお誘いの声をかけられる機会があったんです。それなりに知られる方で、ほかの方の目のある中だったのできっぱりとお断りするのもいけないかと。あちらは私の名前も勤務先も把握されているので、フライト後も無視はできず。その場では曖昧に流しておいて、仕事を終えた後にすべてお断りの連絡を入れていたんです」

 牧村さんが有名な人から口説かれていたのは事実のようだ。

 相手の立場まで配慮ができるあたり、彼女はますます異性を惹きつけるのかもしれない。翔さんもそのひとりだったのだろうかと、考えただけで苦しくなる。

「それを翔に勘違いされてしまって。ほかの男の方がいいのかと」

 彼は事実をよく確認もせずに、そんなふうに相手をなじる人じゃない。ほんの数カ月一緒にいただけの私でも、それはわかる。

 けれど本当に惚れ込んだ女性が相手なら、さすがの翔さんも我を忘れてしまうのだろうか。
 わずかに違和感はあるものの、それほど牧村さんを愛していたのかもしれない。

「数カ月前に、翔から突然別れを告げられて……それでも私、彼を忘れられないんです」

 涙を流していなくとも、絞り出すようなその声音は彼女が泣いているように聞こえる。唇が白くなるほど噛みしめる彼女の姿を見ていられず、そっと視線を外した。

「クリスマスに、あなたと翔が食事をしているのを見かけました」

 ついパッと顔を上げてしまったが、彼女が目撃したのは間違いなく私たちだと暗に肯定したように見えただろう。

 あの夜は、職場とは関係のない場所だったからとすっかり油断していた。それは翔さんも同じで、外だというのにいつものように近い距離で私に甘い言葉をささやいていた。
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