俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 さっきまでの遠慮がちのものとは違う、真っすぐな視線を向けられる。それが私を責めているようで、この場から逃げ出したくなる。

「私への当てつけでほかの女性と結婚までしたのかと、つい彼に詰め寄ってしまい……」

 私と翔さんは、マンションを一歩外に出たら接点のない他人を装っている。
 必要な情報は共有するし、なにかと言ってくる両親への牽制にはお互いの存在を利用する。 

 でも自宅以外の場所で彼がどうしているのか、詳細な事情などなにも知らない。だから、翔さんと彼女の間にそんなやりとりがあったなんて思いもよらなかった。

「私は翔に別れを告げられたというのに、未練がましいわね」

 自嘲気味にそう言ってうつむいた牧村さんだったが、それから再び私を見すえた。

「でも、翔ったら私の言葉を肯定も否定もしなかったの。長い付き合いがあるから、あれは彼が図星を衝かれたときの反応だってわかっている」

 言葉の端々に感じる彼との親密さや信頼し合う様子に、私の心がどんどん追い詰められていく。

「翔は、あなたを本当には愛していない。利用しているだけよ」

 ついに彼女の視線に耐えかねて、そっと目を逸らした。

 彼に恋愛感情がないなんて、最初からわかっていた。

「お願い……翔を返して」

 静かな、けれど心の底から叫んでいるような声にハッとして視線を彼女に戻す。テーブルの上で握られた牧村さんの手は力が入りすぎて白くなり、小さく震えていた。

 なにをどう答えたらいいのかわからない。
 翔さんの了承を得ないまま、ここで事実を明かしていいのかと考えを巡らす。
 でもそれは時間稼ぎにすぎず、彼との別れが辛くてなにも言えないでいるだけだと自覚していた。
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