俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 しばらくして手を伸ばしたカップの中身は、すっかり冷めていた。

 あんな悲痛な牧村さんを前にしても、私はなにも言えなかった。
 翔さんに真意を確かめてから。彼の許可を得てから。そんなふうに逃げて、はぐらかしてばかり。

「はあ」

 翔さんに、早く帰ってきてほしい。そう願う半面、別れの予感が怖くなる。

 重い腰をゆっくりと上げる。飲みきれなかったコーヒーをそのままにして、ようやく駅に向かった。

 マンションに帰っても、翌朝目が覚めたときも、私の頭の中は翔さんと牧村さんのことでいっぱいだった。
 翔さんのとの関係をどうすればいいのかと、もう何度も自問自答を繰り返している。

 明日、牧村さんは再び私に会いに来る。そのときには、彼女に示せる答えを出さなければいけない。

 彼の帰りを待ってほしい。
 それが私にとって、時間稼ぎのできるベストな返答かもしれない。けれど、どうしても牧村さんの悲痛な叫びが忘れられず答えに迷う。

 翔さんにメッセージを送ろうかと、さんざん悩んだ。文面を打っては消すことを何度も繰り返す。
 けれど結局は送る決心がつかないまま、彼の帰国する日を迎えていた。


< 80 / 110 >

この作品をシェア

pagetop