俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「取り乱してしまって、ごめんなさい。こんなことを言われても、来栖さんだって困っちゃうわね」

 そう言って彼女は笑って見せているけれど、無理をしているのは明らかだ。
 なにも返さない卑怯な自分が嫌になる。

「急な話で、あなたにも考える時間が必要よね?」
「それは……」
「でも、見ていられないの」

 私に被せるように、若干強い口調で牧村さんが言う。

「意に添わない結婚をした翔が、たまに私に見せる切なげな表情も。あなたが利用されている事実も。こんなの、誰も幸せになれないじゃない」

 そう言い放った彼女は、過ぎた発言だったとでもいうように口もとを手で覆い、すぐに「ごめんなさい」と小声で謝罪した。

「身勝手な言い分だってわかっているけれど……翔の幸せのために身を引いてほしいの」

 彼女は、彼の中に自分への未練を感じているのかもしれない。気持ちを伴わなくても私に勘違いさせるような演技ができるあの人も、本当に愛している人の前では感情を隠しきれなくなるのか。

 翔さんは、どんな結末を望んでいるのだろう。
 このまま私との関係を続けて、彼女への想いが立ちきれた頃にひとりに戻りたいのか。それとも、今すぐにでも牧村さんとやり直したいのか。それは彼女の言葉だけでは判断できないし、私が勝手に決めていいことではない。

 そんな正論を掲げて結論を今すぐ出さないのもまた、少しでも長く彼との関係を続けるためのずるい言い訳になっている。

「翔は、明後日には帰国する予定だわ。だからその前に、あなたに決心してほしいの。不毛な関係を続けても、あなたにはなにも残らないから」

 ふたりは復縁するところまではいってないようではあるものの、牧村さんと彼の間ではそんな空気が実際に生まれているのか。

「明後日の来栖さんの勤務予定を聞いても?」

 瞬時に記憶をたどる。

「え、ええ。早番なので、今日と同じ時間に仕事を上がる予定ですが……」
「それじゃあ、明後日もう一度あなたに会いに行きます。そのときに、来栖さんの気持ちを聞かせてください」

 その前に翔さんと話をさせてほしい。そう私が訴えるより先に素早く立ち上がった牧村さんは、こちらを一度も見ないままお店を後にした。
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