俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「あなたは、翔の見た目とか立場に目がくらんだんじゃないの? それが理由なら、ほかにいくらでも同じような条件の人はいるわ。なんなら、私が紹介してもいい。だから、翔は返して」

 なにも言わない私に、焦れたように牧村さんが続ける。なりふり構っていられず放った言葉かもしれないが、さすがにうなずけなかった。

 最初は翔さんの声の良さに、ファンのような気持ちを抱いた。

 それが彼と一緒に過ごすようになり、優しさに触れて好意を抱くようになった。彼の隣はとにかく心地よくて、今となっては意地悪な面ですら愛しく思える。

 隠している想いとはいえ、私の心を汚されたくない。彼女にそんなつもりはないかもしれないが、まるで外見と職業だけが翔さんの取柄だと言われているようで許せなかった。

「それは違います」

 体の奥がすっと冷えていく。
 周囲はまったく目に入らず、雑音も耳に入らなくなる。ただ真っすぐ牧村さんを見つめた。

 少し驚いた顔をした彼女は、それから表情を消して私を見すえる。
 私と翔さんは、夫婦を装う仲だ。彼からまだなにも聞けていないのだから、その設定は継続すべきだと心を決める。

「私は、見た目や立場で翔さんを好きになったわけじゃありません。彼の誠実で仕事熱心なところが尊敬できるし、いつだって気遣ってくれる優しさに惹かれたんです」
「なっ……」

 まさか私が言い返してくるとは思っていなかったのか、牧村さんが言葉につまる。

「同じような条件の人なんて、相手にも失礼な物言いはやめてください。私は翔さんだから一緒にいたいんです」
「あなた……愛されていなくても、かまわないって言うの?」

 さっきまでの儚げでか弱い雰囲気は霧散し、牧村さんが眉をひそめて懐疑的な目を向けてくる。
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