俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「バカみたい。平凡で愛されてもいないのに、その自信はどこから来るのよ」
「自信なんてないです。いつだって私ばかりが彼を好きで――」

「へえ。それは知らなかった。だが、光栄だな」

「え?」

 突然割り込んだ声にハッとする。
 振り向くと、ひと席開けた隣に、翔さんが座っていた。

「なんで……?」

 牧村さんも、目を見開いて固まっている。すっかり気持ちが高ぶって周囲がまったく視界に入っていなかったのは、彼女も私と同じだったらしい。

 彼はテーブルに片肘をつき、その手に顎をのせている。
 身に覚えがありすぎる光景だ。その余裕たっぷりな雰囲気から察するに、しばらく私たちのやりとりを眺めていた気がしてならない。

「またこのパターンなの?」

 彼の姿を目にした途端に大きく安堵して、体の力が抜ける。気が抜けて思わず小声で漏らした私に、彼はニヤリと笑ってみせた。

「ただいま、真由香。帰国して早々に、熱烈な告白をありがとう」

 全部聞かれていたと察してはいたけれど、あらためて指摘されたせいで頬が一気に熱くなる。あれはこの場の雰囲気にのせられて、なんて言い返す気力は今の私にはない。

「か、翔! おかえりなさ――」

 ハッとした牧村さんが、そう言いながら腰を浮かせる。

 けれど、翔さんに冷たい視線を向けられて動きを止めた。

「名前で呼ばれるほど、親しい関係にあった覚えはないんだが?」

 どういうことだと、翔さんと牧村さんの間で視線を行き来させる。

「君とは、数回フライトで一緒になっただけの間柄だ。それでなにを勘違いしているのか知らないが、職場でずいぶん好き勝手な内容を吹聴してくれたようだな。驚いたよ。数日ぶりに帰国したら、俺と君が復縁したのかと尋ねられて」

「そこから違うの?」

 まさか交際の事実すらなかいのかもしれないと察して、つい声をあげた。

 そんな私に、翔さんは疑っていたのかと言わんがばかりに不満そうな顔をしながらうなずく。

 豹変した牧村さんを前にして、どこまで本当の話だったのか疑問を抱いた。とはいえ、根底から嘘だったなんて信じられない。
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