俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「同僚の話によれば、牧村はもともと女優志望で活動をしていたらしい。とはいえ、あんな大根芝居に騙されるとは。真由香、人がよすぎるんじゃないか」

 くすりと笑いながら、翔さんが席を移動して私の隣に座る。
 あまりに辛らつな物言いに、私の方が心配になる。

「牧村。いい加減にしてくれないか。繰り返し断っているのに、さんざんつきまとわれて迷惑だ」
「っ……翔さんに、そんな女は似合わないわ。あなたには、私のような――」
「見た目がよい、知名度が高い男からの誘いにほいほいとのって、一夜の関係をさんざん楽しんでいるみたいだな。相手が自分に見合わないと思えば、平気で見下して」

 ギリっと音が聞こえそうなほど強く奥歯を噛みしめる彼女を見ていたら、それが図星だとわかる。

「将来の伴侶にはなりえないが、自分の価値を高めるのなら遊びでもかまわない。あわよくば、女優として取り立ててもらえるんじゃないかと考えていたのか。浅はかな女だな」

「なっ」

 牧村さんの頬に、さっと赤みが差す。

「周囲の声に耳を傾けたことはあるか? たしかに美人だが、男にだらしない。牧村は著名人からの誘いを自身のステータスに感じていたかもしれないが、周りの感覚は違う」

 牧村さんは後からすべて断っていたと話していたが、どうやらそれも嘘なのだろう。それどころか、損得で相手を選んで応じていそうだ。

「そういう男とは別に、保険としてそろそろ結婚相手も見繕っておきたかったんだろうな。俺は君にとって条件のいい相手だったらしい」

 ばかばかしいと、翔さんが吐き捨てる。

「君は真由香を俺とは似合わないだとか不釣り合いだと言うが、彼女のなにを知っているというんだ」

 冷静に話しているようだが、その声には静かな怒りを感じる。自分に向けられたものではないのに怖く感じるほどで、それを直接向けられた牧村さんは視線の鋭さはそのままだがすっかり勢いをなくしている。
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