俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「俺の方は、度を越えた君のつきまとい行為についていつでも訴えられる準備がある。それに、上司を通して君の所属会社へクレームを入れた。これで二度目だ。上層部の人間とも懇意にしているようだが、さすがにお咎めなしとはいかないだろうな」

それまでのはっきりとした物言いとは一転して、〝懇意〟と曖昧な表現を使った。関係を持っていると言いたいのだと、ピンっときた。
 翔さんの指摘のどこに反応したのか、それともすべてなのか。牧村さんの顔色が変わる。

「わ、私は、悪いことなんてなにもしていないわ」

 まだ認めないのかと、彼があからさまにため息をついた。

「主張するのは自由だ。存分に弁解すればいい。だが、これだけは約束してもらう。もう二度と俺たちに関わるな」

 訴える可能性まで示唆されたら、さすがに彼女も従うだろう。
 男性から、こんなふうに袖にされた経験が牧村さんにはないのかもしれない。握った拳は小さく震え、全身から怒りが伝わる。

「こっちから願い下げよ」

 そう言い捨てて、牧村さんは荒々しく立ち去った。

「あれだけ長く、しつこく迷惑をかけられていたが、呆気ないものだな」

 呆然と彼女の後ろ姿を見つめていると、腰に添えられたままだった彼の手に力がこもる。

「ところで、真由香」
「は、はい」

 そう言えば、彼には盛大な告白を聞かれていたのだと思い出す。そして、翔さんからも同じように言われたと。
 彼の方は間違いなく演技だ。私もそうだったという言い訳は、成り立つだろうか。

「真由香の熱い気持ちはよく伝わった」
「あ、あれは、牧村さんがあまりにも一方的だったからで」
「口から出まかせだったと?」

 否定しないといけないのに、素直にうなずけない。

「夫を弄ぶとは、真由香は意外と悪い女だな」
「悪い女!?」

「さあ、真由香。自宅でゆっくり話をしようか」




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