俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う

その声に降参です

「あ、あの」

 声をあげたものの、続ける言葉が見つけられない。

 牧村さんが去った後、私たちはすぐに帰宅した。
 それからリビングのソファーに座らされたと思ったら、隣に腰を下ろした翔さんに抱きしめられてしまった。彼はなにも言わないままで、しばらく経つ。

 もぞもぞと体をよじってもビクともしない。離す気はないようだと悟ったが、この状態は絶対におかしい。

「はあ」

 首筋に顔をうずめた翔さんが、小さく息を吐き出す。そのまま深く息を吸い込む。仕事上がりにこの距離感は、ちょっと遠慮したいところだ。

「真由香」

 肌をくすぐる吐息に、背中がゾクゾクする。
 密着していては、高鳴る鼓動が彼に伝わっているかもしれない。

「結婚しよう」
「……ん?」

 それまでのしっとりとした空気を蹴散らすように、翔さんが勢いよく体を離した。

「ん、とはなんだ。覚悟を決めた一世一代のプロポーズを、たった一文字で受け流すとはずいぶんだな」

「二度目ですから!」

 条件反射のように言い返すと、一拍置いて翔さんが噴き出した。

「さすが管制官さん。瞬時の判断が的確だ。ただそれを言った相手が同じなんだから、やはり一世一代と言ってもいいだろ」

 そうなのか?と内心で首を傾げつつ、今はそれどこではないと思い直す。
 回避策をすぐに見つけてくるあたりがさすがパイロットだと、言うべきところでもないだろう。

「で、でも、結婚って」

 焦る私を目にして、翔さんが表情を緩めた。

「冷静沈着な真由香が、俺の言動ですぐにうろたえる」
「それは、翔さんが――」

 からかってくるからと言おうとしたが、彼の手が私の唇に触れて阻む。

「俺を意識して、慌てて、顔を真っ赤にする真由香はたまらない」

 どこまでも意地悪だと視線で訴える私を、翔さんが再び抱きしめた。

「真由香のことが、ずっと好きだった」

 ビクッと体が揺れる。
 好みの声でささやかれる告白にはいつまでたっても慣れないし、ずっととはどういうことかと困惑する。
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