俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「だけど、私たちは……」

 そういう設定でしょ?とは、どうしても続けられなかった。

「聞いて、真由香」

 至近距離から顔を覗き込まれる。
 強く打ちるける鼓動は痛いほどで、呼吸すらうまくできない。
 いろいろと限界の中どうにかうなずき返すと、翔さんはほっとした様子を見せた。

「俺たちが初めて会った日を、覚えているか?」
「……うん」

 おそらくカフェでの遭遇ではなくて、研修で一緒になったことを言っているのだろう。

「あのときは真由香を、積極的に質問をして痛いほど俺たちを見てくる熱心な管制官だなとくらいに感じていた」

 翔さんがくすりと笑う。自覚はないけれど、当時の私はよほど機長と彼を凝視していたのだろう。

「同じ頃、パイロットとの交信の最後にひと言添える管制官が俺たちの間で話題に上がった。その気遣いがいいよなと。それが真由香だ」

 些細なことで話題に上がっていたなんて気恥ずかしい。

「話題の管制官は、もっと勉強がしたいとさらに研修を希望したという。そんな話を漏れ聞いているうちに、想像以上に熱意のある人だと真由香の存在を強く意識した」

 意識すると言っても、それが百パーセント恋愛的な意味でないのは彼の口調からわかる。人として好ましく感じてもらえたのだろう。私もあの研修のとき、仕事に誠実な彼を前にして同じように思っていた。

「当時の俺は、牧村にまとわりつかれてすっかり疲弊していた。そこで触れた君の気遣いのひと言には、思いの外ほっとさせられた」

 ある意味それは弱っているところにつけ込んだというやつではと、眉尻を下げる。それに気づいた彼は、小さく苦笑した。

「真由香との接点など、交信時くらいだ。それだって担当になるかどうか、確率はかなり低い。あとは、あのカフェの近くを通りかかった際に、同僚と過ごすところを見かけるくらい。その自然の笑顔とか、ころころと表情の変わる様子に視線を惹きつけられた。それからどうにも真由香が気になるのに、近づく機会がまったくない。そんな現状に飢餓感を煽られたんだろうな。真由香をもっと知りたい、近づきたいとますます強く思うようになった」

 ここまで一気に言われて唖然とする。
 もちろん私は、見られていたことも彼の気持ちもまったく知らないでいた。

 ただその声が心地よくて、すっかり虜になっていたのはもう翔さんにバレている話だ。
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