俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「真由香たちは、管制塔からあまり出てこないだろ?」
「まあ、そうですね。食事すら、職場でとっていたから」

 そう認めると、翔さんは苦笑した。

「カフェで捕まえたあの日は、帰宅する俺の前をちょうど真由香たちが歩いていたんだ。そのまま店に入っていく姿を見て、今ここで声をかけなければ二度とチャンスはないかもしれないと、悪いが後をつけた」

「うう……ごめんなさい」

 翔さんを貶すような話はしていなかったが、赤の他人の話題をだしていたのは失礼過ぎた。空港内のお店なのだから見知った人がいる可能性は十分あったのに、なんの配慮もできていなかった。
 あらためて申し訳なくなり、両手で顔を覆う。

「なにも怒っていないし、不快でもなかったから。ほら、真由香。顔を見せてよ」

 いつになく甘い彼の様子に胸が高鳴る。優しく手を外され、素直に従った。

「俺としては、またとないチャンスを得られたんだ。つくづく、この声でよかったよ」

 いたずらな口調で言われて、恥ずかしくなる。

「あのとき、結婚願望のない真由香に告白しても受け入れてくれなかっただろ?」
「たぶん、お断りしていたはず」

 そう答えると、翔さんがやっぱりなとうなずいた。

「だから俺は、契約の関係を提案したんだ。少しでも真由香との接点を持って、ゆっくりでいいから好きになってもらえるように距離を詰めていきたくて」

「ゆっくり……?」

 かなり早急にぐいぐいきていなかったかと、ジト目で彼を見る。

「ちゃんと節度ある偽装夫婦を演じていただろ?」

 私ばかりドキドキさせられて、最初から彼に翻弄されていた。

 翔さんはいつだって余裕たっぷりで、そんな事情はまったく感じさせなかった。やっぱり彼は演技派だ。

「いえ。いろいろとアウトすれすれだったかと」

 思わず冷静に返してしまうのも、これまでのあれこれを考えれば仕方がないだろう。
 同じベッドに入り、抱きしめながら耳もとで愛をささやく。その上、額や髪に口づけられるって、どの辺に節度があったのかと恨めしくなる。

 こうしている今だって、ものすごく距離が近い。
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