さくらびと。美桜 番外編(2)
「ありがとう」
彼女は小さく言ったが、その声には力がなかった。
二人で傘の下に身を寄せ合い、美桜の家に向かって歩き始める。雨音が沈黙を埋める中、彼女がぽつりと口を開いた。
「お父さん……優しい人だったんだよ」
その瞬間、彼女の頬を伝った涙はまるで宝石のようだった。
雨粒と混じり合いながら流れ落ちていく。
「小さい頃から私を守ってくれて……どんな時も味方でいてくれたの」
涙は次第に嗚咽に変わり、彼女は肩を震わせた。思わず美桜の手を握ると、彼女は安心したように身体の力を抜いた。
「怖いんだ……一人になるのが」
その言葉に胸が締め付けられた。美桜がこれほど弱さを見せることは初めてだった。