さくらびと。美桜 番外編(2)
待合室の椅子に腰掛ける裕紀の横で点滴をぶら下げ、車椅子に乗った美桜が小さく震えていた。





診察室を出てから一言も発しない。






時折鼻をすする音だけが静かな空間に響く。







「大丈夫だ」








そう言った自分の声も掠れていた。






何が大丈夫なのか分からなかった。






現実を受け止めきれないのは美桜だけでなく自分も同じだ。









「嘘だよね……?」





ようやく絞り出した彼女の声は囁くように弱々しかった。





「何それ…こんな……冗談みたいに終わるの?」


「そんな…、そんなことって……」





裕紀は答えなかった。





代わりに彼女の肩を抱き寄せた。

裕紀の左肩に、じわじわと美桜の涙が染み込んでいく。



柔らかな髪に顔を埋めると消毒液の匂いが鼻を突いた。






「美桜…ごめん…、もっと…もっと早く気づいていれば……!」






「裕紀のせいじゃないよ」






意外にも彼女の方が冷静だった。






涙を拭いながら続ける。





「むしろ私の方こそ……少しでも、変だなって思ったときににすぐ言わなかったから…」







「はは、私、何で言わなかったんだろう、何で…」







「馬鹿野郎」






思わず語気を強めてしまった。





美桜の目が驚きに見開かれる。






「そういうこと言うなよ。美桜が悪いことなんか一つもないんだよ!」






怒鳴りたくなる気持ちを必死で抑える。





感情的になるべきではない。







今は彼女を支えるのが最優先だ。







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