さくらびと。美桜 番外編(2)

第6章 さくらびと。

半年が経った。




季節がめぐり、四月の風が窓辺のカーテンを揺らしていた。





病室の窓から見える並木通りの桜が満開を迎え、薄紅色の波が病棟の灰色を洗い流している。






「きれい……」






美桜の囁きは春風よりも儚げだった。






以前の張りがあった肌は今や陶器のように生気がなく、骨格が浮き彫りになった腕が毛布の端から覗いている。





裕紀は無意識に彼女の手を握った。






冷たい。かつての温もりはどこへ行ってしまったのか。






< 65 / 97 >

この作品をシェア

pagetop