さくらびと。美桜 番外編(2)
朝焼けが病棟の窓を金色に染めていた。
がらんとした廊下を歩く裕紀の足音だけが静寂の中に響く。
医師国家試験に合格した日の翌朝、彼は美桜の荷物整理と病棟の職員へ最後の別れを告げに病院へ来ていた。
「あら、有澤さん」
廊下の角から現れたのは看護師長の倉橋さんだった。
白髪混じりの髪を後ろで結んだその姿に、裕紀は深く頭を下げた。
「短い間でしたが、お世話になりました」
「いえいえ」
倉橋さんはハンカチを取り出し目元を押さえた。
「美桜さんのことで何かできればと思っていましたが……」
言葉が途切れる。
裕紀も何も言えなかった。
二人の間に流れる沈黙がすべてを物語っていた。