クズ男の本気愛
翌朝になり、出社しながら考えるのは中津川さんのことだった。朝の出勤の時は大丈夫だったかな、と心配だったのだ。迎えに行って一緒に出社すればよかったと反省している。ニュースでは一方的な片思いをこじらせて事件を起こしたりする犯人たちが流れているので、不安になってしまう。
早めに出社してみると、中津川さんの席にカバンが置いてあったのでほっとした。無事に会社に来られたようだ。私は安心して自席につく。
「せーんぱい。おはようございます」
「あ、霧島くんおはよう。早いね」
背後から声が掛かったので振り返ると、朝だというのに爽やかな顔をした霧島くんが立って笑っていた。いつ見ても、顔がいい。
「仕事がちょっと残ってて」
「あ、そっか、昨日送るために無理に切り上げてくれたんだね……」
「まあすぐに終わるんですけど」
中津川さんを送るのに、仕事を残したままだったのだ。こういうところ、彼は本当に優しいしちゃんとしてるなと思う。私は微笑んで、カバンからスマホを取り出す。
「コーヒーでも飲む? 奢るよ」
「え? なんで先輩が」
「先輩だからだよ」
「……じゃあ、一緒に選びに行きます。嬉しい」
霧島くんがそう言ってはにかんだので、なんだかこちらがドキッとしてしまった。コーヒー一杯で、こんなに嬉しそうにしてくれるなんて、私も嬉しくなってしまう。
そのまま彼と並んで自動販売機を目指す。私は昨日のお礼を言いながら、中津川さんについて話題を出した。
「出勤のとき、中津川さん大丈夫かなーって心配だったけど、もう来てるみたいだったね。無事に来ててよかったよ」
「あー確かに、朝とはいえ心配ですよね。自宅はバレてないといいですけど」
「可愛いとこういう目に遭ったりするの、不憫だなあ」
そんなことを言いながら歩いていると、自動販売機の近くに中津川さんの後姿を見つけた。あっと思い声を掛けようとして、向こうの会話が耳に入ってくる。
「えー! 霧島さんかっこよすぎじゃーん!」
どうやら他の部署の女子と話しているようだ。恐らく、昨晩のことを説明しているのだろう。中津川さんは嬉しそうに声を弾ませている。
「ほんとかっこよかったよ、もう完璧すぎる!」
「その後家まで送ってもらったの?」
「そう!」
「きゃー! いいじゃん、羨ましい!」
「ほんとは二人だったら、家に上がってってくださいって言えたのにさあ……もう一人いたからさあ」
恨みがましそうな声に、はたと止まる。
私のことだ、と分かったから。