クズ男の本気愛
「ていうか、そもそも霧島さんに送ってもらうためにラインの話題を話したんでしょ? そこに自分もついてくるって、空気読めなさすぎじゃない? お前いらねーよっていう」

「しかも防犯ブザーと催涙スプレーって! 自意識過剰だね~その人、アラサーでしょ? 美人でもないんでしょ? 襲われると思ってんのかね」

「痛い痛い! 痛い女!」

「ていうかさ、帰りはその女と霧島さんが二人だったってこと? それ狙ってたんじゃない、襲われてないかな霧島さん?」

「あはは! 心配するのそっち? いや、誘われても普通に振るでしょ。あんなにいい男が年上の普通な女相手にするわけないってー」

 笑い声を聞いて目の前が真っ暗になった。足元が崩れ落ちていく感覚になる。

 そうか、そんな風に思われていたのか。私はただ心配でついて行っちゃったけど、確かに何の役にも立ってないし邪魔者だったのだ。霧島くんに全部任せるのが正解だったのに、しゃしゃり出て鬱陶しいと思われていたのか。

 そうだったのか……。

 恥ずかしくてたまらなかった。穴があったら入りたい。一人で張り切って心配して、なのに裏で後輩たちにこんな風に言われるだなんて、もういなくなってしまいたい。

 顔が熱くなり、同時に心臓は冷めたようになった。苦しくてたまらず、息をするのも辛かった。

 どうしようか困り果てて隣を見上げた瞬間、霧島くんがものすごい顔になっていることに気が付く。

「あ……」

 こんな顔は見たことがない、というほど、彼は怒っていた。静かに、けれど抑えきれない怒りが全身から溢れ出て、不穏なオーラをまとっている。

 一歩踏み出した霧島くんの腕を咄嗟に引いた。止めた私に驚く彼の腕をそのまま引き、その場から離れる。

「先輩」

「いいから。私も確かに空気読めなかったし……中津川さんが無事で何よりだよ。別にこれくらい、いいの」

 私が笑いながらそう言うと、彼はぴたりと足を止め、真剣な顔で私に言う。

「……先輩のそういう優しいとこ、凄いと思います。真摯に接した相手にあんな風に言われて笑っていられるなんて。俺にはまねできませんよ」

「別に、大事にしたくないだけ」

「でも、優しすぎますね」

「え……」

「あれだけ心配して、自分も危険な目に遭うかもしれないのについて行った先輩は何も悪くない。俺は許せない」

 そう言い切った霧島君はすっと私の手を逃れ、再び中津川さんたちの元へ戻ってしまった。慌ててその後を追った時には、もう彼が笑顔で中津川さんたちに声を掛けた直後だった。

「おはよう、中津川さん」

 笑っていた彼女たちはぎょっとしたように霧島くんを見る。焦ったように中津川さんが霧島くんに言う。

「霧島さん、おはようございます! 昨日は本当にありがとうございました……!」

「ううん、気にしないで」

 優しく答えた霧島くんに、話を聞かれていないと思ったらしく安堵した中津川さんは、嬉しそうな声で続ける。

「よかったらお礼に食事でも……」

「もう君が困ってても何も助けないから。時間が合うときは送っていくって話だったけど、あれなしね。一人で帰れ」
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