左遷先は月運行局分局 ――追放ヒロインのスキルで、公務も恋も大逆転
第27話 『家族の名で連結』
朝、咲那が分局の台所に大きな白板を持ち込んだ。『最終局面に向けて、家の辞書=盤面を固定するよ』。白板の上段には“平均/現在”の境目として鉛筆線が五本、下段には家ルール表の余白が広く空けてある。倖菜は承認台に『名義=配分』の枠を増やし、朱で『名は伏せて置く』と短く書いた。朱は旗ではない。句読点だ。
その日の題は『家族の名で連結』。名を並べるのではなく、受け持ちを短く配る。翼は“一日一背負い”の札に『名で背負う』と添え、ことみはのれんの端を指一本で折って戻す。折り跡は残らない。残らない跡は、白を太くする。白が太いほど、名は燃えない。
公開の家授業。順序は耳→足→目→笑い。耳――ことみが『拾い音なし』を5→7→5に循環させ、静けさの窓を前に置く。足――二肩半+掌、角で一秒アイドル、半歩戻す。目――伏せ札は写真に写らない薄さで名札の足元へ。笑い――玲空がチャイムを裏拍で一打。裏拍は注意。注意の上で、名は軽く置かれる。
星芽は赤い紐を白板の上にたわませ、章の頭に小さな丸を置いた。『台所』『桟橋』『広場』『屋台通り』『倉庫口』『港口』。丸は句点。句点が置かれたら、その章はその名で進む。名札は伏せる。写真に写らない薄さで。伏せるのは、誇りが燃えないように。家は、燃やさない。
そして――『集合写真』を撮る時間が来た。『うまくいった瞬間>失敗の理由』の配置のまま、家の全員+日替わり背負いが白板の前に並ぶ。翼はガシャーンを未遂にするため、角で一秒、半歩戻す。ことみは中低で『今』。玲空が明→暗で二打。明は宣言、暗は合意。シャッターの前に七秒の静けさ。静けさの上に、笑いは薄く落ちる。
咲那は集合写真を盤面に固定した。『平均/現在』の境目のすぐ右、“現在”の段落見出しの丸の下。磁石は写真に写らない薄さで、四隅を軽く押さえる。『章見出しとしての家』。章の頭に、家がいる。家がいると、判断が短い。
古参が言った。『名を出すと、責任が重い』。倖菜は写真を二枚並べる。『無名→責任が拡散→白が薄い』『名義=配分→責任が短い→白が太い』。短い責任は、長く続く。長く続く仕組みは、事故に強い。善裕は白板の“戻り矢印”の丸を名の横に増やし、『ここで止まれる』の座席を二重にした。
第一章『桟橋=翼』。風は高、のれんは中低。翼は背負い席で先に止まるを実演し、住民ネットの名札を伏せて置く。『田辺』『石川』『百合』――名は見えない。ただ、受け持ちが薄く配られる。配られた受け持ちは、軽い。軽いほど、継続は強い。
第二章『屋台通り=咲那』。油煙で逆相が立つ。ことみが七秒の柱を立て、翼がのれんの端を指一本で折り、善裕が負荷分散リングを角の手前二歩に置く。『名義=配分』だから、合図は中低で足りる。中低は、誤解を呼ばない。誤解を呼ばない速度は、速い。
第三章『広場=善裕』。焦りが高に跳ねる。善裕は停止儀式で落とす。手順は四語――裏拍→一秒→半歩→中低。四語で足りる状況を増やす。増えた分だけ、写真の白は厚い。厚い白は、集合写真の裏打ちになる。
第四章『倉庫口=ユナ』。外部スタッフが五分訓練で合流。ユナは『耳→足→目→笑い』の四語を中低で復唱させ、伏せ札の置き方を教える。伏せ札=写真に写らない薄さ。薄いほど、読まれる。読まれるほど、名の火傷は起きない。
第五章『港口=星芽』。星芽は○を作り、左右へ開く。「みぎ、ぎゃく」。二語の間に、一拍。赤い紐はたわみ、丸へ自動で吸われる。紐は曲線で最短を見つける。曲がった紐は、正しい。直線を救うのは、曲線。星芽の指は低い。低いほど、丁寧。丁寧ほど、名はやわらかく連結する。
途中、光る矢印派が煽る。『集合写真なんて映えだろ』。咲那は写真の脇に翻訳表を貼る。〈映え〉→〈長持ち〉〈自己宣伝〉→〈配分の公開〉〈名前出し〉→〈名は伏せる〉。外に置いた翻訳は、外で効く。家の中は、静かに。
集合写真の配置替えで、笑いが起きた。翼が前に出すぎた顔の写真を、ことみが半歩戻し、角で一秒。玲空が暗で一打。『うまくいった瞬間>出すぎの理由』の並べ替え。写真は辞書。辞書は重い。重い辞書は、事故を跳ね返す。
夕方、星芽が集合写真の下に小さな点を描いた。点は呼び鈴。押さなくても鳴る種類の鈴。『この点の意味、あとで』と彼女は言い、○を作って左右へ開いた。「みぎ、ぎゃく」。二語の間に、一拍。翼は眉を落とし、中低で『はい』とだけ答えた。
監理官が巡回する。「家族連結の効果は?」。麻理江の第三者ログに秒・写真・一行。『衝突総量↓/停止○/鳴かない秒+5』『背負い日替り→負担平均化』『名の火傷ゼロ』。短い。短いから、通る。
片付け。伏せ札、ラベル、リング、拡散幕、名札、集合写真の予備。順番は撤去十歩。跡は残さない。跡が残らないと、明日の白が太い。太い白は、最終話の再掲に耐える。
夜、分局。白板の“現在”の脇に、小さな巻物が伏せられた。『家族版・音階――位相表』。翼は“一日一背負い”の札を指でなぞり、『名で返す』に小さな丸を一つ。倖菜は朱で『次:星芽の正体(仮)』と書き、丸を一つ。玲空のチャイムが遠くで一打。句読点が置かれたら、文章は休む。休んだら、また前へ進む。
集合写真の固定手順も公開する。①白板の位置決め(中低の高さ)②四隅に温度低めで磁石を置く③『うまくいった瞬間>失敗の理由』の順で左→右に貼る④見出しの丸を太くする⑤二本線の帯を写真の足元に敷く。帯を跨ぐと、足は半歩遅くなる。半歩の遅さが、見栄えの暴走を止める。
額縁は使わない。写らない薄さが原則だ。厚い額は、声を増やす。声が増えると、白は薄い。薄い白は、名の火傷を招く。『家=公開の縮小』では、薄さ=礼儀。礼儀が厚いほど、写真は長持ちする。
星芽が『家の合図』をもう一度。○を作り、左右へ開く。「みぎ、ぎゃく」。二語の間に、一拍。三拍の静けさを続けて、『ここで止まれる』の丸を二重に。二重丸の間で、子どもが先に止まる遊びを始めた。先に止まるほど、列は速いのに壊れない。
翼は未遂ガシャーンのセルフ解説をやって、笑いを一拍に収める。『光ったら、目が走る→半歩戻す→角で一秒→中低で「今」→未遂』。写真の端に『未遂の理由』を短く貼った。短い失敗は、家の栄養。
咲那は『撮影の逆位相』を導入。掛け声を明でなく暗で出す。暗は落ち着く。落ち着いた拍子で撮ると、笑いが薄い。薄い笑いは、翌日に残らない。残すのは、白。
夕暮れ、集合写真の複写を作る。大写し・小写し・家族版。家族版は巻物にして、家ルール表の余白へ伏せる。伏せられた写真は、夜に強い。夜が強い家は、最終話に強い。
集合写真を盤面に固定する作業は、儀式というより日常の延長だった。
シールを剥がし、空気を抜き、端を指で撫でていく。写真の中央で、
誰かが目をつぶっているのも含めて「うち」のバランスだ。完全に整えるより、
少しだけズレを残すほうが、見ている側の姿勢もまっすぐになる。
家族と名づけると、他人が入りづらくなる――――その危うさを知ったうえで、
「入口は二つある」と咲那は言った。表口は姓で、裏口は呼び名で開く。
裏口から入って来る人に椅子を足すのが、うちらしい。椅子の脚が床を引っかく音が、
不思議と安心の合図になる。
その日の題は『家族の名で連結』。名を並べるのではなく、受け持ちを短く配る。翼は“一日一背負い”の札に『名で背負う』と添え、ことみはのれんの端を指一本で折って戻す。折り跡は残らない。残らない跡は、白を太くする。白が太いほど、名は燃えない。
公開の家授業。順序は耳→足→目→笑い。耳――ことみが『拾い音なし』を5→7→5に循環させ、静けさの窓を前に置く。足――二肩半+掌、角で一秒アイドル、半歩戻す。目――伏せ札は写真に写らない薄さで名札の足元へ。笑い――玲空がチャイムを裏拍で一打。裏拍は注意。注意の上で、名は軽く置かれる。
星芽は赤い紐を白板の上にたわませ、章の頭に小さな丸を置いた。『台所』『桟橋』『広場』『屋台通り』『倉庫口』『港口』。丸は句点。句点が置かれたら、その章はその名で進む。名札は伏せる。写真に写らない薄さで。伏せるのは、誇りが燃えないように。家は、燃やさない。
そして――『集合写真』を撮る時間が来た。『うまくいった瞬間>失敗の理由』の配置のまま、家の全員+日替わり背負いが白板の前に並ぶ。翼はガシャーンを未遂にするため、角で一秒、半歩戻す。ことみは中低で『今』。玲空が明→暗で二打。明は宣言、暗は合意。シャッターの前に七秒の静けさ。静けさの上に、笑いは薄く落ちる。
咲那は集合写真を盤面に固定した。『平均/現在』の境目のすぐ右、“現在”の段落見出しの丸の下。磁石は写真に写らない薄さで、四隅を軽く押さえる。『章見出しとしての家』。章の頭に、家がいる。家がいると、判断が短い。
古参が言った。『名を出すと、責任が重い』。倖菜は写真を二枚並べる。『無名→責任が拡散→白が薄い』『名義=配分→責任が短い→白が太い』。短い責任は、長く続く。長く続く仕組みは、事故に強い。善裕は白板の“戻り矢印”の丸を名の横に増やし、『ここで止まれる』の座席を二重にした。
第一章『桟橋=翼』。風は高、のれんは中低。翼は背負い席で先に止まるを実演し、住民ネットの名札を伏せて置く。『田辺』『石川』『百合』――名は見えない。ただ、受け持ちが薄く配られる。配られた受け持ちは、軽い。軽いほど、継続は強い。
第二章『屋台通り=咲那』。油煙で逆相が立つ。ことみが七秒の柱を立て、翼がのれんの端を指一本で折り、善裕が負荷分散リングを角の手前二歩に置く。『名義=配分』だから、合図は中低で足りる。中低は、誤解を呼ばない。誤解を呼ばない速度は、速い。
第三章『広場=善裕』。焦りが高に跳ねる。善裕は停止儀式で落とす。手順は四語――裏拍→一秒→半歩→中低。四語で足りる状況を増やす。増えた分だけ、写真の白は厚い。厚い白は、集合写真の裏打ちになる。
第四章『倉庫口=ユナ』。外部スタッフが五分訓練で合流。ユナは『耳→足→目→笑い』の四語を中低で復唱させ、伏せ札の置き方を教える。伏せ札=写真に写らない薄さ。薄いほど、読まれる。読まれるほど、名の火傷は起きない。
第五章『港口=星芽』。星芽は○を作り、左右へ開く。「みぎ、ぎゃく」。二語の間に、一拍。赤い紐はたわみ、丸へ自動で吸われる。紐は曲線で最短を見つける。曲がった紐は、正しい。直線を救うのは、曲線。星芽の指は低い。低いほど、丁寧。丁寧ほど、名はやわらかく連結する。
途中、光る矢印派が煽る。『集合写真なんて映えだろ』。咲那は写真の脇に翻訳表を貼る。〈映え〉→〈長持ち〉〈自己宣伝〉→〈配分の公開〉〈名前出し〉→〈名は伏せる〉。外に置いた翻訳は、外で効く。家の中は、静かに。
集合写真の配置替えで、笑いが起きた。翼が前に出すぎた顔の写真を、ことみが半歩戻し、角で一秒。玲空が暗で一打。『うまくいった瞬間>出すぎの理由』の並べ替え。写真は辞書。辞書は重い。重い辞書は、事故を跳ね返す。
夕方、星芽が集合写真の下に小さな点を描いた。点は呼び鈴。押さなくても鳴る種類の鈴。『この点の意味、あとで』と彼女は言い、○を作って左右へ開いた。「みぎ、ぎゃく」。二語の間に、一拍。翼は眉を落とし、中低で『はい』とだけ答えた。
監理官が巡回する。「家族連結の効果は?」。麻理江の第三者ログに秒・写真・一行。『衝突総量↓/停止○/鳴かない秒+5』『背負い日替り→負担平均化』『名の火傷ゼロ』。短い。短いから、通る。
片付け。伏せ札、ラベル、リング、拡散幕、名札、集合写真の予備。順番は撤去十歩。跡は残さない。跡が残らないと、明日の白が太い。太い白は、最終話の再掲に耐える。
夜、分局。白板の“現在”の脇に、小さな巻物が伏せられた。『家族版・音階――位相表』。翼は“一日一背負い”の札を指でなぞり、『名で返す』に小さな丸を一つ。倖菜は朱で『次:星芽の正体(仮)』と書き、丸を一つ。玲空のチャイムが遠くで一打。句読点が置かれたら、文章は休む。休んだら、また前へ進む。
集合写真の固定手順も公開する。①白板の位置決め(中低の高さ)②四隅に温度低めで磁石を置く③『うまくいった瞬間>失敗の理由』の順で左→右に貼る④見出しの丸を太くする⑤二本線の帯を写真の足元に敷く。帯を跨ぐと、足は半歩遅くなる。半歩の遅さが、見栄えの暴走を止める。
額縁は使わない。写らない薄さが原則だ。厚い額は、声を増やす。声が増えると、白は薄い。薄い白は、名の火傷を招く。『家=公開の縮小』では、薄さ=礼儀。礼儀が厚いほど、写真は長持ちする。
星芽が『家の合図』をもう一度。○を作り、左右へ開く。「みぎ、ぎゃく」。二語の間に、一拍。三拍の静けさを続けて、『ここで止まれる』の丸を二重に。二重丸の間で、子どもが先に止まる遊びを始めた。先に止まるほど、列は速いのに壊れない。
翼は未遂ガシャーンのセルフ解説をやって、笑いを一拍に収める。『光ったら、目が走る→半歩戻す→角で一秒→中低で「今」→未遂』。写真の端に『未遂の理由』を短く貼った。短い失敗は、家の栄養。
咲那は『撮影の逆位相』を導入。掛け声を明でなく暗で出す。暗は落ち着く。落ち着いた拍子で撮ると、笑いが薄い。薄い笑いは、翌日に残らない。残すのは、白。
夕暮れ、集合写真の複写を作る。大写し・小写し・家族版。家族版は巻物にして、家ルール表の余白へ伏せる。伏せられた写真は、夜に強い。夜が強い家は、最終話に強い。
集合写真を盤面に固定する作業は、儀式というより日常の延長だった。
シールを剥がし、空気を抜き、端を指で撫でていく。写真の中央で、
誰かが目をつぶっているのも含めて「うち」のバランスだ。完全に整えるより、
少しだけズレを残すほうが、見ている側の姿勢もまっすぐになる。
家族と名づけると、他人が入りづらくなる――――その危うさを知ったうえで、
「入口は二つある」と咲那は言った。表口は姓で、裏口は呼び名で開く。
裏口から入って来る人に椅子を足すのが、うちらしい。椅子の脚が床を引っかく音が、
不思議と安心の合図になる。