溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
エレベーターに乗り、目的のフロアで降りる。
元々秘書になる前に各部署で下積みはしてきたので、書類を見ればどの部署のものなのかは分かる。こういう部分でも知識は役に立つんだから侮れない。
「すみません。こちらの書類が、」
「あれ、前田さん!? 久しぶり~」
オフィスに顔をのぞかせると、数人の知り合いが立ち上がって駆け寄ってきてくれた。元々ここでお世話になっていた時の上司や同期、後輩までもが笑顔を浮かべている。
「お久しぶりです。ここの書類が回ってきてしまったようなので、お返しに来ました」
「わざわざ来てくれたの?ごめんなさいね」
「いえ。ちょっとした気晴らしも兼ねてるので」
冗談交じりにそう言うと、皆笑ってくれた。中には、お菓子まで持ってきてくれた人もいる。
「先輩、お久しぶりです!」
「え、もしかして向井くん!?」
見慣れた顔ぶれの中からヒョコっと出てきたのは、私が教育係として色々教えていた向井くん。当時からやる気に満ち溢れ、誰よりも努力してきたのを近くで見ていたため、特に思い入れのある後輩だ。
途中で私が部署を変わったため、関わりが少なくなっていたが、覚えていてくれるなんて嬉しい。
「はい!覚えていてくれましたか!」
「もちろん覚えてるよ!…って、なんか大きくなった?」
「最近、趣味でジムに通ってるんです!」
「だからか~」
元々明るい性格だったが、より拍車がかかった気がする。キラキラさに、若干目が痛い。
「向井君ね。あれからメキメキ力をつけて、今ではうちの部署のエースなんだよ」
同期がコソッと教えてくれるも、聞こえていたようで照れるように訂正される。
「そんなことないんですよ。本当に、先輩が丁寧に教えてくださったので、俺はここまで頑張れてるんです」
「またまた~。そんなに謙遜しなくても、向井君の力なのに」
他にも沢山の人が話しかけてくれて、中には『先輩方から噂を聞いています!』なんて嬉しいことまで言われた。なんの噂を広めているんだか。でも、新入社員から尊敬のまなざしを向けられるのも悪くない。