溺れるほどの愛は深くて重く、そして甘い
その後の会議も、滞りなく無事に終わった。
智弘の不機嫌は隠しきれていなかったが、それでもやはり私にしか分からない程度まで抑えられていた。
公私混同を嫌うとはいえ、ここまで完璧に振る舞われては一周回って怖いところ。
書類に関してはすでに終わっており、会議が終わった段階ですぐに退社できるようになっていた。終わった速度を見るに、相当集中したのだろう。嫌でもそれを感じてしまう。
「帰るぞ」
「…はい」
いつもの数段低い声に、意図せずとも震えてしまう。
まるで、出廷でもする気分だ。もしくは、処刑前の罪人の気持ち。どちらも体験したことはないが、多分似たようなものだろう。
こんなしょうもない現実逃避をしないとまともではいられない程、今の私は限界を迎えていた。
いつも車で一緒に出勤しているため、退社も必然的に一緒になる。
運転席に回ろうと思ったところ、さり気なく止まられてしまう。
「今日はいい。俺が運転する」
「え、」
「後ろへ」
「……はい」
いつもは私に運転を任せるのに珍しい。でも、その理由を聞くことができないまま、私は後部座席に座るしかなかった。